<全国高校野球選手権:聖光学院4-3愛工大名電>◇9日◇1回戦

 愛工大名電(愛知)が聖光学院(福島)に逆転負けし、今夏も初戦で姿を消した。同校野球部に在籍していた兄を3年前に交通事故で亡くした徳浪優斗内野手(2年)が、亡き兄のバットでチーム3点目の適時打。中盤まで試合を優位に進めたが、25年ぶりの夏1勝はかなわず。夏は初戦8連敗となった。

 亡き兄のバットを手に適時打を放った。6回2死三塁の第3打席。徳浪は「お兄ちゃん、力を貸して」と祈りながら兄のバットを握った。5球目の内角への真っすぐに反応。打球は右前に抜け、3点目が入った。

 兄康介さんは、同校野球部に所属していた。10年2月、恒例の早朝ランニング中に事故に遭い、亡くなった。徳浪は兄が使っていたバットとともに、甲子園の初戦に臨んでいた。

 ここ一番の時に使用すると決めている。兄の同期、日本ハムの谷口が愛工大名電時代に形見として使っていた。卒業時に「お前に戻す」と受け取った。愛知大会の豊田西戦で初めて使った。中前安打を打つことができた。この日、前の2打席は自身のバットで凡退していた。「このバットは魂がこもっている」。天国の兄が後押ししてくれた一打だった。

 7回に逆転を許し、聖光学院に初戦敗退を喫した。敗退後、ベンチ前で土を集めた。兄も夢見た聖地。「土はお兄ちゃんの仏壇に供えます。来年また戻ってきます」。勝利につながらなかった。1年後。兄と再び戻ってくる。【宮崎えり子】