<全国高校野球選手権:前橋育英4-1日大山形>◇21日◇準決勝

 前橋育英(群馬)の“ミスター0”がまたやってのけた。高橋光成(こうな)投手(2年)が、日大山形を1点に抑え、決勝進出を決めた。最速は142キロと本来のキレはなかったが、変化球で打たせて取る投球で104球の省エネ投法を披露。今大会5試合、41イニングを投げ、自責点0を継続した。エースが決勝進出まで0を続けたのは、80年の早実・荒木大輔以来33年ぶり。今日22日正午から延岡学園(宮崎)と、ともに初優勝をかけて戦う。

 ヒーローは自分自身のことに驚いて固まった。前橋育英・高橋光は試合後のインタビューで防御率が0・00のままと聞かされると、動きが止まった。「またっすか!?

 自責点1を出したと思ったのに。『ああ…』って意識して、その後に四球を出しちゃいました」と目をまん丸にして驚いた。

 「持っている」としか言いようがない。6回、先頭打者に初球を狙われた。高めに浮いた125キロのフォークは中堅手の頭を越える長打コースに。中継プレーが乱れ、走者は三塁まで進んだ。しかし、記録は二塁打と中堅手の悪送球による失策。次打者に左翼へ犠飛を打たれたが、自責点はつかなかった。5試合41回を投げ、いまだに自責点は0だ。

 「今日が一番キツかった」と調子は良くなかった。最速148キロ右腕の初回の最速は138キロ。威力のない直球を狙われ、1死満塁のピンチを招いた。日大山形の5番吉岡に「打たれた瞬間、抜けたと思った」と痛烈なゴロを浴びた。だが、二塁手の高橋知が好捕。野手にも助けられる幸運で、併殺に仕留めると、そこから乗った。

 捕手から返球を受けるとポンポンと投げ込むテンポの良さと、右打者の外角に決まるスライダーでカウントを稼いだ。最後は切れ味鋭いフォークと、縦に落ちるスライダーで打者を斬った。特にフォークにはこだわりがある。「身長が高いから打ちづらいはず」と昨秋から習得。握りは独学で、「三振を奪うときは、ワンバウンドになるくらいに」と、打者の腰から下を目がけて思いっきり腕を振る。

 188センチの大柄な体でも運動神経は抜群だ。走り高跳びは170センチと学年でもトップクラス。群馬・沼田市という山に囲まれた土地で育った。小さい頃は夏は川で泳ぎ、冬はスキーと山を駆け回り、運動能力を磨いた。父義行さん(41)は「山に育てられたようなもの。小さい頃から運動神経が抜群だった。とにかく野球が好きで、バットを抱いて寝てましたよ」と笑う。

 前夜は試合のことを考えすぎて寝付けなかったという2年生エース。「3年生と野球が出来るのもあと9イニング。1勝を全力で取りに行く」と言い切った。泣いても笑ってもあと1試合。持ってる男が全国3957校の頂点を目指す。【島根純】

 ◆下級生投手の決勝進出

 最近の主戦投手では05年優勝の田中将大(駒大苫小牧2年)以来。03年ダルビッシュ有(東北2年)04年福井優也(済美2年)は優勝せず。他に優勝したのは60年柴田勲(法政二2年)61年尾崎行雄(浪商2年)83年桑田真澄(PL学園1年)ら。