<高校野球愛媛大会:済美8-0三島>◇16日◇1回戦◇西条市ひうち球場

 最速157キロ右腕、済美の安楽智大投手(3年)のラストサマーは「恩返し」の完封発進だ!

 愛媛大会の1回戦で三島相手に5安打7奪三振。公式戦では右肘を故障した昨秋以来、297日ぶりの登板で、エースらしく成長した姿を披露。最速こそ146キロ止まりも、阪神中村勝広GM(65)はじめ10球団のスカウトらをうならせ、今秋ドラフトの目玉としての実力を見せつけた。

 297日ぶりの公式戦復帰で剛腕安楽が白星発進した。昨年9月22日の秋季大会1回戦で右肘を故障して以来となる公式戦登板。昨春のセンバツで、全5試合に先発し、772球を投げ4完投で準優勝と世間を騒がせた右腕が苦戦しながらも、最後の夏初戦を勝ち切った。

 両エースが粘りの投球でゼロ行進。均衡が破られずに迎えた8回、安楽が2死三塁のピンチを招いた。打席には4番尾崎亨四郎内野手(3年)。脳裏に「不安」が駆けめぐったが、「苦しいときに抑えるのがエース」と言い聞かせた。捕手を目掛けて投じた直球は145キロ。尾崎のバットは空を切った。

 ピンチを脱した後はチャンス演出だ。9回無死一塁で4番の安楽が右前打で続くと、その後一挙8得点。厳しい試合でまず1勝をつかんだ。

 遠かった。昨秋のケガの影響で、今年に入るまでノースロー調整。「投げられないのが一番つらかった」と振り返る。秋冬は投球練習の時間を下半身強化に充てた。大嫌いだった走り込みも、200メートルを50本ダッシュするなど黙々と行った。「日本一の練習をしたからこそ、自信のある夏」。安楽の自信は、一層エースとして成長させていた。

 1人では乗り越えられなかった。故障後は、周囲からのプレッシャーに押しつぶされ、自分らしい投球ができなかった。そんなとき上甲正典監督(67)から「お前1人で背負い込む必要はない」と声を掛けられた。「すごく楽になりました」と振り返った。エースの高い意識がいつしか自分を追い込んでいたと気付いた。

 3年間支え続けてくれた上甲監督。安楽は「恩返ししたい」と話す。「まずは、監督さんを甲子園に連れて行くこと」。帽子の裏には決意として「恩返し

 みんなのために

 日本一の練習」と書き込んだ。感謝を胸に、強くなった右腕が聖地へ向け1勝を積み重ねる。【小杉舞】