<センバツ高校野球:南陽工2-1PL学園>◇28日◇2回戦

 PL学園(大阪)の中野隆之投手(3年)に「春の悲劇」が襲った。9回まで無安打投球を続けたが、味方の援護なく延長10回4安打を浴びて2失点。1-2で南陽工(山口)に敗れ「幻のノーヒッター」は甲子園を去った。南陽工は故津田恒美投手(享年32=元広島)を擁して以来31年ぶりの8強進出。

 甲子園に響く南陽工の校歌を聞くうちに、中野の目に涙があふれた。敗戦の瞬間はこらえたが、もう抑えられなくなった。「自分さえ0点に抑えていたら負けなかった」と自らを責める。9回まで無安打無得点を続けた左腕は、泣いた。

 延長10回1死。竹重に102球目の直球を左前に運ばれた。初めての被安打。捕手の藤本がマウンドに走ったが、間合いを嫌った。伝令が来てタイムを取ったが、藤本は「今日初めて投げ急いでいた」と不安になった。2死から2本目の被安打で一、二塁。5番の左打者・高木にスライダーを中前にはじき返され、ついに失点。「左打者がホームベース寄りのライン際に立って、内角を投げられなくなった」と中野は振り返り、藤本は「内角にストレートを投げさせるのが怖くなって。左が狙っているのはわかっていたのに、スライダーで三振を取りに行ってしまった」と悔やんだ。

 8回から球威、握力が落ちた。だが8回を投げ終えたとき、同僚の井上に「あと3人や」と声をかけられた。初めて大記録に向かっているのを知った。力を振り絞り、9回も3者凡退。だが援護はなかった。

 2月中旬の右太もも肉離れで、調整が遅れた。だが「ケガのせいにはしたくない」と言った。昨夏の南大阪大会2回戦直後、寮の階段を下りようとして右太ももを肉離れ。3年生が介抱に飛んできた。不注意を責めず、いたわってくれた先輩に応えたかった。だが2番手登板した決勝で、救援に失敗。ベンチでサヨナラ負けを見届け「ケガに強くなろう」と涙に暮れた。昨秋、腰、右太ももに激痛を抱えながら近畿大会全4試合を完投した姿こそ、成長だった。

 「強い体をつくり夏に戻って来ます」。1回戦は1-0完封。鮮烈な印象を残し、PL学園のエースは甲子園を去った。【堀まどか】