<全国高校野球選手権:鹿児島実14-1日大鶴ケ丘>◇3日◇1回戦

 鹿児島実の田野尻悠紀内野手(3年)が、9番打者史上初の満塁本塁打を放った。日大鶴ケ丘(西東京)戦の5回1死満塁から左翼スタンドに運び、戦後通算1100号のメモリアル弾となった。9番打者の6打点の活躍で、14-1と大勝した。

 とどめを刺したのは意外な男の意外な一打だった。5点リードの5回裏。1死満塁から田野尻の打球は左翼ポールを直撃した。「スタンドの歓声で入ったのが分かった」。公式戦、練習試合でも経験のない、高校初本塁打が、大舞台でのグランドスラムになった。

 戦後の夏通算1100号、甲子園初の9番打者満塁アーチ。そんな高校野球史上に名を残す本塁打だが、田野尻は「次につなごう」と、打席に入った。内角の直球に身体が反応。打った瞬間「あっ、入るかも」と手応えはあったが、二塁手前まで全力疾走。危うく前の走者を追い越しそうになった。「初めてのホームラン。わけが分からなかった。自分でもビックリ」。軽く右腕を上げただけ。ガッツポーズも控えめだった。

 3打数3安打で6打点。死球も2つとまさに大当たりだったが「普段(の田野尻)を見たら本当に9番打者。あまり期待してなかったのが良かったのかな」と宮下正一監督(35)。県大会の直前にバントの構えからバットを引いて打つバスターに変え「タイミングが取りやすくなったし、力が入らず楽に振れる」と徐々に調子を上げ、鹿児島工との決勝では先制打。県大会で4割1分7厘の高打率を残した。

 バスターは野球部伝統の技だった。久保克之総監督(70)は「プロより前にうちが先駆けて取り組んでいた。昔はプッシュバッティング打法と言っていた。30年前からやってるからね」と笑った。10年ぶりの初戦突破は、鹿児島県勢80勝目となった。2回戦は宮崎商との南九州対決。「次も9番でいいです」。田野尻は浮かれることなく気を引き締めた。【栗原広人】