<高校野球宮城大会>◇10日◇1回戦

 宮城の熱い夏を予感させる「延長の開幕戦」を9年間、夏の白星がなかった多賀城が制した。1回に6点差をつけられたが、コツコツと得点を重ね延長11回、ついに勝ち越し。気仙沼を10-9で下した。5回から救援した左腕・岩見優作(3年)が7回2安打無失点で勝利を引き寄せた。

 絶望的な点差が、スコアボードに映される。まだ1回だというのに1-7。だが多賀城ベンチに敗戦ムードはない。「腹を決めろ。運のいいことに、まだ初回だ」。2回の攻撃前、石垣光朗監督(47)は、そうハッパをかける。4日、上山明新館(山形)との練習試合でも初回に5失点し、1-6で敗戦。それを引き合いに出しベンチで「慣れてるから大丈夫だ」と話す選手もいた。

 大量点はない。コツコツと得点を重ねた。この我慢強さはどこから来るのか…。3点差とし、迎えた9回。敵失に乗じて一気に追いつく。そして延長11回、7番三浦裕人(3年)が3本目の長打で2死二塁。だが続く8番岩見が引っかけ、一、二塁間にボテボテの当たり。それでも必死で走る。それを見た気仙沼の佐々木一真主将(3年=二塁手)が焦って一塁へ悪送球。その間、三浦も激走し、一気に決勝点をもぎ取った。

 10年ぶりの夏1勝。石垣監督も感無量の表情だった。テーマは「徹底力」だった。野球部日誌は毎日欠かさず提出させ、違反した者は練習に参加させなかった。伝統的に、ベンチ入りメンバーは部員の投票で決めるが今年はさらに「多賀城プライド」という1人枠を設けた。「技術だけでなく、勉強や学校生活、練習態度がしっかりしてる選手が入る枠です」と伊丹昇平主将(3年)。夏のメンバー決定まで2度の投票を行い、1カ月以上をかけた。

 救援で7イニングを投げ勝利投手となった岩見は、小差の得票数で背番号「1」を逃した。それでも「一生懸命練習してもらえた『10』。誇りです」と話す。さまざまな経験から我慢する力、考える力が身についた。13日は強力打線の仙台育英戦。たとえ大量点を奪われても、もう怖くはない。【三須一紀】