「マイナビオールスターゲーム2019」の第1戦が12日、東京ドームで開催され、プラスワン投票で選出された阪神原口文仁捕手(27)が、感謝のアーチを描いた。

大腸がんを乗り越え、たどりついた夢舞台。9回2死一塁で代打出場し、左中間席に2ランを運び、敢闘選手賞に選出された。

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令和初の夢の祭典で、不屈の男が劇的ドラマを生み出した。9回2死一塁。代打コールされると、力の限りバットを振り抜く。日本中の注目を集めた白球が、左中間スタンドに突き刺さる。大腸がんを乗り越え、たどりついた夢舞台で、まさにミラクル弾…。プラスワン投票で選出してくれた全国のファンに、感謝のアーチを描いた。

「本当にたくさんの方にサポートしてもらった。ファンの方にも励ましの手紙などをたくさん頂いて…。僕自身、本当に勇気づけられた。(恩返しに)最高の結果だったと思います」

本塁を踏み、ヘルメットを脱いだ。無数の拍手を、歓声を一身に浴びた。「みなさんに『ありがとうございます』の意味を込めて。(本塁打を)狙って打てるバッターじゃない。自分のスイングを心がけた中で本当にいい打球が飛んでくれた」。矢野監督から「狙えばいい」と本塁打指令も出ていた。原口は感謝しつつ「狙っても打てない。偶然を期待したい」と応じていたが、大病からの復帰初アーチを夢舞台で飾ってみせた。

まさか…から劇的な歩みはとどまるところを知らない。昨年末、人間ドックを受け、大腸がんと診断された。決してくじけなかった。家族やチームメート、自分を待ってくれる人のために-。必ずバットを握り、ミットを手にする。その一念で、1月末に手術を終えると、地道なリハビリを経て3月上旬に2軍に合流。1歩ずつ、復帰ロードを進み、6月4日に1軍昇格。その当日に復帰安打を放つと、同9日にサヨナラ打。さらに1カ月後に届いた知らせが球宴出場。感謝の思いをまたもプレーで体現した。

原口 ほんとに幸せだな…と感じてます。また夢のような場所で野球ができて感謝の気持ちでいっぱい。半年前を考えたら、ここにいることが夢のようなこと。この現実を思い切り楽しんで元気にやりたい。

前打者の中日高橋が凡退なら巡ってこなかった打席。野球の神様も原口のバットを待ち望んでいたに違いない。奇跡のようなストーリーだが、あきらめなかった男が現実に刻んだ物語だ。【真柴健】