「世界の代打男」元阪急(現オリックス)の内野手・高井保弘(たかい・やすひろ)さんが、13日午前9時44分、腎不全のため兵庫・西宮市内の病院で死去した。74歳。

74年の球宴で代打サヨナラ弾を放つなど「代打男」として活躍。代打本塁打通算27本はプロ野球最多で、メジャー記録をも上回る“世界記録”だった。

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「勇者たちへの伝言」(増山実著)という本を見つけたのは、時間つぶしに利用させてもらう本屋さんのコーナーの一角だった。

阪急ファンを題材にした小説で、その中に高井さんの近況を伝えるくだりがあった。取材待ち合わせの場所、取材を受ける喫茶店、そしてコメント…。「ブーちゃん、変わってないな」と懐かしみながら、一気に読み切った。

代打本塁打27本の世界記録。たった1回出場した74年のオールスターでは、史上初の代打逆転サヨナラホームランを放ったが、当時のことを聞くと、「あんなハデな場所、ワシには似合わん」と真顔で振り返った。

ある年のオープン戦。ベンチ入りしなかった高井さんが記者席にやってきて、私の横に座った。相手はセ・リーグのヤクルトだったか。それでも、阪急の外国人選手・スペンサー仕込みの「クセ盗みの名人」は、シーズンでは対戦しないヤクルト投手陣の球種をズバズバと的中させたのには驚いた。

DH制、クセを見破る眼力…。「この2つがワシに生きる道を与えてくれた」。チームメートにもクセを教えなかった世界の代打男。74歳、元気の塊みたいな人が、こんなに早く逝くとは…。「職人」がまた1人、この世を去った。【79~81年阪急担当=井坂善行】

◆高井保弘(たかい・やすひろ)1945年(昭20)2月1日生まれ、愛媛県出身。今治西高から名古屋日産を経て64年に阪急入り。66年に1軍デビュー。通算27本の代打本塁打はプロ野球記録。77年にベストナイン。82年限りで引退。現役時代は173センチ、90キロ。右投げ右打ち。長女は元宝塚月組・松波美鶴で、天海祐希らと同期。