阪神秋山拓巳投手(30)が意地の10勝目を挙げた。前回5日の巨人戦は2回でKOされたが、今季初の中5日で広島相手に7回2死まで無安打無得点。7回1安打1失点で、2連勝と首位固めに大貢献した。ドラフト3位以下の生え抜き投手の2年連続2桁勝利は球団初の快挙。同僚の青柳、巨人高橋に並びハーラートップに躍り出た。2位ヤクルトが勝って3差は変わらずだが、リーグ優勝、そして猛虎同士の最多勝争いも楽しみな秋になってきた。

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秋山は記録よりチームの勝利しか頭になかった。04年井川慶以来のノーヒットノーランかと球場がざわついた7回2死。西川に初安打となる10号ソロを許した。内角高めボール球を右翼ポール際へ。「ノーヒットには気づいていたけど、狙う気持ちはなかったです」。苦笑しただけで崩れることはなかった。続く4番鈴木誠を108キロのカーブで二飛に仕留め、7回を1安打1失点で投げ切った。

意地のマウンドだった。

前回5日の首位攻防巨人戦(甲子園)は今季最短の2回、45球3失点でKOされた。「前回ふがいない投球だったので、今回はしっかり投げると意気込んでいた」。今季初の中5日で、ここ2年で8勝(1敗)を稼ぐ広島を相手に用意されたリベンジの舞台。負けるわけにはいかなかった。

「自分の長所を考えながら、思い切って自分を信じて投げることができた」。この日投げた80球で、球速140キロを越えた球は1球もなかった。160キロを投げる投手も出る時代でも、09年ドラフト4位の12年目右腕はらしさ全開だった。ドラフト3位以下の生え抜きでは、球団史上初の2年連続2桁勝利を達成した。

スピンが利いたり、利かずに沈む速くない直球がキレた。抑えられた広島朝山打撃コーチは「不思議な直球」と表現した。1回先頭の野間は外角高め137キロ直球で空振り三振、続く小園はこの日最速139キロを内角の構えたミットに決め、見逃し三振。盗塁死を含む21アウトのうち、三振3個、ゴロ2個、飛球7個と半分以上を“不思議な直球”で奪った。矢野監督も「やっぱり大きな特長」とうなった。

青柳、巨人高橋と並ぶリーグ最多の10勝目。同僚同士で最多勝を争う展開になってきた。阪神の最多勝は14年メッセンジャー以来だが、日本人右腕では79年の小林繁以来。生え抜き右腕では66年村山実以来、55年ぶりに歴史の扉を開ける。

大きなプレゼントもゲットした。親交があるEXILEのATSUSHI(41)が、10勝すれば秋山のテーマ曲を作ると約束していた。「いい曲をお願いしますと伝えたい」と笑った。それでも「まだここがゴールではない」ときっぱり。リーグ優勝をつかむまで、まだまだ腕を振る。【石橋隆雄】

◆秋山の今季の早期降板 首位攻防だった前回5日の巨人戦(甲子園)は、今季最短の2回で降板。初回に吉川の適時打と中島の2ランで3失点。2回2死二塁のピンチを無失点で切り抜けた後、その裏2死一、二塁の打席で代打小野寺を送られた。7月4日の広島戦(マツダスタジアム)も3回2失点で降板。広島戦はここ2年で10戦7勝0敗だったが、3-0から1点差に迫られた直後の4回2死二、三塁で打席が回り、代打原口を告げられた。

▼秋山の2桁勝利は、昨年の11勝に続き2年連続。秋山は09年ドラフト4位。阪神にドラフト3位以下で入団した投手の2年連続2桁勝利は球団初となった。阪神の下位指名投手の2桁勝利はほかに、94年4位の川尻哲郎があるが、96年13勝、98年10勝、00年10勝で連続年はなかった。

▼ドラフト3位以下でプロ入りし、他球団から阪神に移籍し連続年2桁勝利を挙げた投手は4人。江本孟紀(70年東映ドラフト外)76~79年、小林繁(71年巨人6位)79~83年、下柳剛(90年ダイエー4位)05~08年、西勇輝(08年オリックス3位)19~20年。