巨人が大エースの快投で王手をかけた。「2021 JERA クライマックスシリーズ セ」ファーストステージの阪神戦で、菅野智之投手(32)が7回2安打無失点で猛虎打線を封じた。立ち上がりから全開で投げ込み、4回まで無安打投球。6回2死二、三塁のピンチも強気を貫き、痛打を許さなかった。2戦先勝の同ステージ初戦を制した。

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自信満々で大きくうなずいた。3点リードの6回2死二、三塁。菅野が天敵をにらみつけた。阪神近本に直球4球で押し込み、カウント2-2からはフォークで揺さぶった。「誠司が『逃げたらダメだよ』『強気で行くぞ』と、すごく力強い目で勇気を与えてくれた。最後まで集中力を切らさずに勝負できた」。勝負球は内角膝元へのスライダーで遊飛に仕留めた。今季対戦成績が打率5割の相手キーマンをねじ伏せた。

苦難の連続だった。今季は、けがと不振で4度の離脱。19試合に先発し、自己ワーストの6勝にとどまった。プロ後、初めて登板試合が20試合を下回った。東京五輪は出場辞退を強いられ、セミが鳴くジャイアンツ球場でネットスローを繰り返すことしかできなかった。実戦復帰のメドも立たない。勝負の舞台から少し距離が開いた。こわばった表情が心なしか穏やかになった。苦難からの復活劇に美談は何ひとつない。

「そこは奇麗ごとにしてはいけないので。やっぱりずっと続けることが何よりも良いことだと思う。もちろんプラスにしなきゃいけないっていうこともありますけど、シーズン戦えなかった悔しさっていうのは常に持っている。そういうのが今日はプラスに働いたのではないのかなと思います」

一進一退のしびれる勝負の舞台に大エースが舞い戻った。レギュラーシーズンで11ゲーム差をつけられた阪神を土俵際まで追い込んだ。下克上を目指し、先の戦いへと勝ち進む、意義がある。「本人が一番つらい思いをしていると思いますし、ここまで来られたのは間違いなく(岡本)和真のおかげなので、何とか勝ち進んで、彼が打席に入る姿を見たいなと僕は思っています」と欠場した主砲への思いを吐露した。仲間を信頼し、思いやる強さがある。頼もしい大エースが下克上の先陣を切った。【為田聡史】

▽巨人原監督(菅野について)「切れ味鋭いというかね、いい投球をしてくれた。主導権を渡さずにね、うまく(無失点で抑えた)というのは大きいですね」