<巨人5-2阪神>◇15日◇東京ドーム

 巨人の坂本勇人内野手(21)が、値千金の逆転満塁本塁打で阪神を粉砕した。0-1の7回2死満塁。阪神の4番手メッセンジャーの初球を、やや体勢を崩しながら左中間席に運んだ。打線は、来日初登板の阪神フォッサムに6回3安打無得点と苦戦。約2年ぶりの同一カード3連敗の危機を、狙いすました1発で救った。7日に亡くなった内野守備走塁コーチの木村拓也さん(享年37)の誕生日に、惜別のアーチをささげた。

 巨人坂本は火照った体を冷ますように、ベンチに座り込んだ。7回、チームを救う逆転の4号満塁弾を放った。余韻が残る東京ドーム。味方の攻撃が終わり守備に就くのに少し遅れた。「ホッとしました」と笑顔。マウンドに集まっていたチームメートたちにも飛びきりの笑顔で迎えられた。

 みんなの思いを乗せた。0-1の7回。先頭阿部が二塁打も、続く長野が犠打失敗。好機がしぼみかけたが、そこから2四球で2死満塁とした。「みんながつないでくれたので打たないと男じゃない。四球の後。ストライクで来るとは思ってました」と読みもあった。阪神メッセンジャーの外角スライダーを引っ張った。泳ぎ気味になったが、スイングは力強かった。「詰まらされたんで入るかなあと思ったんですが」。一塁を回りながら左中間席へ届いたのを見ると、珍しくガッツポーズも飛び出した。

 自らの失敗を取り返す1発でもあった。1回、鳥谷の遊ゴロを一塁へ悪送球。前日の試合でも犯したミスだった。試合前の練習中、原監督の「しっかりやろう」という声に謙虚に耳を傾け、普段以上に入念に送球練習を行っていた。それだけに「エラーしたのに内海さんがしっかり抑えてくれて、エースだなと思いました」と感謝もひとしおだった。内海が直前で代打を送られ、打たなければ内海に勝ちはなかった。助け合うのがチーム。投手陣を引っ張るエースと、打線を引っ張る1番打者はベンチ前でがっちりと抱き合った。

 細身のスラリとした体。ラミレスのような巨漢ではないが、体が泳いでも長打を打てる。なぜか?

 1日の横浜戦、自身初の5安打を放った。翌日の新聞には、中堅方向から撮影されたボールをとらえた瞬間の5枚の写真が並んだ。コースや球種は違っても、上体と顔の向きや角度が酷似していた。写真を見た白坂トレーニングコーチは「どれも一番、力を伝えられるへその前でボールをとらえてる。体の使い方がうまい」とうなった。腕力だけあっても本塁打は打てない。面目躍如の1発だった。

 負ければ08年開幕カード以来の同一カード3連敗で、3位転落の危機だった。そして、この日はくも膜下出血のため7日に他界した木村拓也さんの誕生日。試合開始直前、円陣で主将の阿部が「今日は絶対に勝とう」とげきを飛ばした。坂本は「拓さんの力が本塁打にしてくれました。最高のプレゼントになったと思います」。17試合連続安打と自己記録を更新中の21歳の一撃が、チームメートや多くの人の願いをかなえた。【古川真弥】

 [2010年4月16日9時45分

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