<横浜14-6阪神>◇20日◇横浜

 カァ~ツ!

 阪神金本知憲外野手(42)が、屈辱的な大敗の中で意地の代打弾を放った。先発フォッサムを始め投手陣が崩壊。真弓体制ワースト14失点(18被安打)で最下位横浜に大敗した。右肩痛のためベンチスタートが続く金本は11点差の8回、ふがいないチームに“喝”を入れるかのように右中間へ弾丸ライナーの7号2ラン。連続フルイニング出場が途絶えた因縁の横浜スタジアム。ファイティングポーズを崩さないアニキが、明日へ架けるアーチを放った。

 まさに意地の一太刀だった。ビハインドは今季最大の11点。だが金本はあきらめていなかった。無死二塁での代打。威力ある小林太の149キロ真っすぐを、フルスイングではじき返した。打球は弾丸ライナーのまま、右中間最深部にスタンドイン。意気消沈していた、阪神ファンで埋まる左翼スタンドはこの日一番に沸き返った。屈辱的大敗の中、8回表に刻んだ2得点。それは最後まで全力を尽くす野球人金本のプライドが詰まった一撃だった。

 2カ月ぶりに帰ってきた因縁の球場で、より集中力は研ぎ澄まされていたのかもしれない。4月18日。右肩痛が限界と判断し、自ら連続試合フルイニング出場を、1492でストップさせたのがこの横浜だった。

 「勝つための手段として僕は外れます」。試合前に申し出ると、真弓監督、木戸ヘッドコーチから「もうちょっと頑張ろう。出てくれ」と逆にお願いされた。「その気持ちがすごくありがたかった」。そして指揮官はロッカーに全ナインを集め「カネが偉大な記録を止めてまで、勝つために外れると言ってきた。みんな、その気持ちを大事に戦うぞ」と言ってくれた。ホロ苦くも熱いものがこみ上げたあの時以来のハマのベンチ裏。感謝を胸に秘め、大鏡の前で精神統一して臨んだこん身の一打席だった。

 3試合ぶり7号2ランで代打では2本目のアーチ。和田打撃コーチは「普段4打席立つ選手だから、代打はすごく難しいはず」とあらためて敬意を表した。注目のスタメン復帰は「しっかり投げられるようになってから」(木戸ヘッドコーチ)と慎重路線は変わらない。だが試合前のキャッチボールでは、日ごと強度を増すなど順調な回復を示している。「1日も早く1試合でも早く、明日にでも守備に就きたい思いはある」。誰よりも先発復帰を願うのは金本本人。だが今は我慢とぐっと耐え、当面の一振り稼業にすべてをかける。

 連続フルイニング記録はギネス社から世界記録に認定され、29日に甲子園で表彰される。それは「毎年、毎試合、勝つためにグラウンドに立っていたいという思い」の結晶だった。勝利への執念は代打でも変わらない。この日のような大差ゲームでも変わらない。記録の止まった横浜、そして新たな鉄人伝説の出発点となった横浜。男の生きざまを示した1発だった。

 [2010年6月21日10時58分

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