<セCSファイナルステージ:巨人3-2中日>◇第5戦◇21日◇東京ドーム

 劇的なフィナーレを期待し騒然とする場内と対照的に、石井義人内野手(34)は呼吸を整え、動きを止めた。9回1死満塁。代打の代打を告げられ打席に入ると、いつもの「儀式」に取りかかった。足場を慣らし、バットを顔の前に垂直に立てる。そして数秒間、バットの「NPB」の刻印をジッと見つめた。

 石井

 視点を定めるためだよ。ベンチから打席に行くと、明るさが違う。目が慣れるまでに時間がかかる。だから、一点を見て、ピントを合わせるんだよ。

 代打を告げられグラウンドに立つ。いきなり強烈な照明の光を360度から浴び、違和感があるという。1打席勝負の代打稼業で重要なのは「選球眼」と「初球からスイングすること」。考え抜いて見つけたのが、この「職人芸」だった。

 この日のしびれるような場面でも、培った技が生きた。初球直球から思い切り強振(ファウル)。2球目は内角低めにストライク。追い込まれたが、際どいコースでフォークも頭にあったため、打ちにいっても安打の確率が低いと判断して見送った。ファウル後の4球目。内角直球に詰まったが、強く振り抜けたからこそ左前に落ちた。

 原監督は「1打席のピンチヒッターの中で本当に素晴らしいですね」と絶賛した。今季リーグ戦では代打で37打数15安打の4割5厘。プロ16年目の代打職人は「みんながつないでくれたので何とかしようと思った。多少プレッシャーはあったけど、良かったよ」と胸を張った。【浜本卓也】

 ▼プレーオフ、CSで逆王手をかけたのは3戦先勝時代が5度、4戦先勝になってからは10年ロッテに次いで2度目。セ・リーグのCSで3勝3敗は初めてになる。過去6度のうち77年阪急、10年ロッテの2チームが最終戦も勝ってシリーズ出場を決めている。巨人は日本シリーズで逆王手を3度かけたことがあり、55年南海戦は○●●●○○→○、76年阪急戦は●●●○○○→●、89年近鉄戦は●●●○○○→○。55年は1勝3敗、89年は0勝3敗から日本一になった。

 ▼巨人は代打石井の左前打でサヨナラ勝ち。プレーオフ、CSのサヨナラ勝ちは11年ファイナルS<3>戦のソフトバンク以来7度目で、巨人は初めて。プレーオフ、CSで代打のサヨナラ打は初めてで、日本シリーズでは53年<1>戦村上(南海)81年<1>戦井上(日本ハム)83年<6>戦金森(西武)92年<1>戦杉浦(ヤクルト)97年<2>戦田辺(西武)の5人が記録。ポストシーズンで巨人選手の代打サヨナラ打は初めてだ。この日の石井は代打谷の代打。日本シリーズでも「代打の代打」がサヨナラ打を放った例はなく、石井がポストシーズン史上初めてとなった。