入社して30年目。記者としてのキャリアは20年以上になる。数字は立派なベテランやが、中身は立派やない。派手なニュースを抜いたこともなく、仲間うちでは「記者」というより「記者っぽい人」てな認識です。そんな50過ぎのおっさんが思う「記者の喜び」もまた、ささやかなもんです。

 名古屋場所の10日目と13日目から千秋楽まで、春日野部屋の朝稽古をのぞいた。狙いは平幕優勝の可能性があった碧山。相撲取材2場所目の新米なんで「まあ、行くだけ行ってみよか」てな気持ちで足を運んだ。

 最初の10日目。取材に来た記者は私を含めて2人だけ。朝稽古を終えた碧山に話を聞こかと思ったら、付け人が近づいてきた。で、頭を下げる。

 「すみません。実は先日、朝に取材受けて…」

 阿武咲に初黒星を喫した8日目らしい。ピンと来た。

 「ああ、験担ぎやね」

 「そうなんです」

 そうか。ブルガリアの人でも、そこは一緒か。ごり押しするのも無粋やし「そら、しゃあないね」と黙って引いた。ラスト3日間も一緒やった。本人の話はなし。朝何時に土俵に上がって、すり足を何回して、相撲を何番取って、てなあたりをチェックして表情を見て、親方に話を聞いて帰る。

 ほんで千秋楽。碧山は嘉風に勝って13勝2敗。結びの一番で白鵬が負ければ優勝決定戦…という権利を手にして取組を終えた。白鵬は日馬富士に勝って、そのまま優勝した。

 支度部屋で碧山の取材が始まった。すると、こっちを見た。開口一番に「残念です」。私の目を見て、私に言いよった。

 別に紙面に差が出るほどの話やない。それでも、やっぱりちょっとうれしい。その気持ちは、30年前と変わりません。

 たわいもない話なんですがね。【加藤裕一】