「あの言葉が浮かんで、ようやく描けました」。相撲錦絵師の木下大門氏は、国技館の売店でしみじみと話した。

85年初場所に現在の国技館が会場になってから、木下氏の錦絵が館内で販売されている。販売するきっかけは、過去に理事長や相撲博物館館長を務めた元前頭出羽ノ花の故武蔵川親方(本名・市川国一)の勧めだった。その時に「関取うんぬんは関係ない。大童山とか巨人力士も錦絵になっているから、そういうのも描け」と言われたという。

しかしその後、幕下以下で巨漢の注目力士はなかなか現れず。月日は流れて昨年8月。当時三段目の大露羅が元大関小錦を上回る288キロを計測して、歴代最重量になったことが耳に入った。そして今年の名古屋場所で、土俵に上がるのも一苦労の姿を見て「市川さんの言葉を思い出した。これはもう記録に残さないといけないと思った」と序二段大露羅の錦絵を描いた。

今場所初日から錦絵が販売されていたが、相撲協会による幕下以下の力士の商品は販売してはいけないという規則から今は販売されていない。それでも「描くのは問題ない。次は300キロを超えたら描きたい」と夢を膨らませた。【佐々木隆史】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)