奇跡の復活だ。挑戦者の長谷川穂積(35=真正)が、鮮やかによみがえった。王者ウーゴ・ルイス(29=メキシコ)を9回終了TKOで破った。

 勝利を導いたのは、ベタ足と起きない上体だった。14年4月の世界戦に敗れ失意の長谷川を現役続行に向かわせた「原動力」の1つが、筋連動トレーニングだ。昨年3月から大阪・豊中市内のジムに通い、プロゴルファー松山英樹らも指導した早川怜氏(35)に師事。「12回までスピードを落とさず戦い切ること」を目的に、肉体を改造した。

 「初めは腰痛で、背中を反ることもできなかった。赤ちゃんにハイハイを教えるように、体を引っ張りながら可動域を広げた」と早川氏は言う。ジムワーク以外の筋力トレを否定してきた長谷川には新鮮だった。「紹介してもらって、また強くなっている自分がいた」。最初は自転車の全速こぎ1分で足がよろめいたが、半年で筋肉量は5キロ増えた。

 今年に入ると、長谷川から習得したい「理想の動き」をリクエストした。早川氏に見せたのは、プロ7戦で2階級を制した現WBO世界スーパーフェザー級王者ロマチェンコの映像。「彼は重心を低く保てる選手。穂積さんは若いころに比べ上体が起きる傾向にあったので、まず足の動きをベタ足にしたんです」と早川氏。かかとを上げてつま先を使い過ぎるとふくらはぎに疲労がたまり、上体が起きる要因になる。その予防にベタ足を意識して背中を丸めることで、重心を下げる練習を繰り返した。

 腹筋に加えて尻の筋力、股関節の柔軟性向上にも成功した。重心の低い体勢から押す力が3割増した。この日も上体を起こさず、効果的な左のパンチを何度も王者の腹に打ち込んだ。柔らかく背中を丸め、相手の強打も寸前でかわした。「負けても年のせいにはしたくない」と、自らの加齢を反骨心に努力を重ねてきた。7・5センチも身長が高いルイスを、35歳の年齢を感じさせないしなやかな動きで攻略した。【木村有三】