「『あん時のラウンドガールの七瀬ちゃんや~』ってなって…」

9月13日、MBSテレビで放送された「痛快!明石家電視台」(関西ローカル)。カップルが出演するコーナーでボクシング元東洋太平洋バンタム級王者の山本隆寛さん(30)は、お茶の間に笑いをもたらせた。

自身の試合でラウンドガールを務めたモデルの久保七瀬さん(35)と3~4年後に偶然再会し、結婚に至った物語。幸せそうな恋愛トークに、明石家さんま(66)からは「お前、左フック食らいすぎ!」とツッコミを入れられ、スタジオは大盛り上がりとなった。

2年前の19年9月、山本さんは念願の結婚式でマイクを握った。涙を流しながら、懸命に言葉を紡いだ。

「プロボクサーとして10年間戦ってきました。たくさんの人に恵まれました。それが何よりの財産になりました」

10代半ばから一直線に夢を追った。15歳で始めたボクシング。高校の退学届に「世界チャンピオンになるためにやめます」と記して競技に専念した。尼崎ジムから井岡ジムへ移り、のちに日本人唯一の世界4階級王者となる井岡一翔らと共にトレーニングを積んだ。

当初ボクシングに反対した母は、10年9月に病気で亡くした。その悲しみを乗り越え、15年8月に東洋太平洋王座を獲得。だが、3度目の防衛戦で陥落した。世界挑戦は遠のき、18年12月には大森将平(ウォズ)に3回TKOで敗戦。27歳。引き際と腹をくくった。

「『どこを目指していいのか』と、モチベーションが難しくなりました。引退は意外と、スパッと決められた。結婚もしたいし、お金も稼ぎたい。『人生の第2章』と前を向けました」

引退後に待っていたのは、ボクシングの魅力を再確認する日々だった。21年7月、元東洋太平洋スーパーウエルター級王者の細川貴之さん(36)に誘われた。

「YouTube、一緒にやろうや!」

現役時代から交流があったが、食事を共にしたのは初めてだった。開設した「たかゴリch」には元世界3階級制覇王者の長谷川穂積さん(40)らが厚意で出演。山本さんはグローブをはめ、ミットを持つ長谷川さんにパンチを打ち込む。

「格闘技の素晴らしさを伝えつつ、笑えるような、楽しい動画を撮ろうと言っています。僕のバックボーンはそれ(ボクシング)しかない。見ている人に何かを伝えられたらいいです」

自身は大阪市内にパーソナルジムを開き、並行して未知の挑戦を続ける。ある日、細川さんに「俺、中学の時にお笑い芸人になりたかってん」と伝えると「俺もやで!」と返ってきた。エントリー締め切り日に「M-1グランプリ」に応募すると、アマチュアながら1回戦を通過。10月8日には2回戦出場を予定する。

ボクシングに打ち込み、離れて知った価値がある。

「得たのは人との出会い、つながりです。ボクシングをやっていたからこそ出会えた人たちに、僕は支えられています。本当に感謝しかありません」

リング上のスタイルと同じように、第2の人生も真っすぐに進む。【松本航】