大横綱のDNAが、再び角界に流れ込む。新弟子ら14人による前相撲が始まり、元横綱大鵬(故人)の孫、納谷(17=大嶽)が初土俵を踏んだ。同じく新弟子の朝東(18=高砂)に勝ち白星デビュー。8日目に行われる新序出世披露で着ける化粧まわしに、祖父の大鵬が現役時代に着けていた物が準備されているなど、大物感をたっぷりに漂わせた。

 納谷の後ろ姿からは、既に“大横綱”の貫禄があった。昨年12月の全日本相撲選手権でも立った、両国国技館の本土俵。先に仕切り線の前に腰を落とした朝東に合わせることなく、自分の仕切り線を右足で一払い。どっしりと腰を落とし、立ち合い3度の突きで突き出した。師匠の大嶽親方(元十両大竜)が「前に出る相撲は大鵬さんと同じ」と評価する内容で圧倒。188センチ、166キロ。単純比較できないが、全盛期の大鵬を上回る体に力がみなぎった。

 白星デビューにも「最初なので勝てて良かったです」と控えめ。それよりも「少しやりづらさがあった。まだ前相撲なので分からないけど、すごく引き締まる感じ」と、本場所ならではの独特の雰囲気を感じ取っていた。大嶽親方は「今日は良い相撲でした。きっちり手を使って足も出ていた」と頬を緩めた。

 新序出世披露で着ける化粧まわしに、史上2位の優勝32度を誇る大鵬の現役時代に着けた物が準備されている。大嶽親方によれば「大関か三役時代の物。大鵬さんの孫ですから」。貸していた北海道の知人に連絡し、返してもらったという。納谷が着ける姿を想像し「また化粧まわしがよみがえるよ」とつぶやいた。元大鵬夫人の納谷芳子さんが「だんだん雰囲気が似てきました」という風ぼうに似合わないはずがない。

 強心臓ぶりも横綱譲りだ。前日15日の夕食時、大嶽親方は納谷に「下手したら結びの一番よりすごいことになるぞ」と重圧をかけた。その言葉通り、前相撲では異例の約30人の報道陣が納谷の一番に注目。しかし「緊張はなかった。昨日もぐっすり寝ました。気が付いたら」とあっけらかん。土俵下では豊昇龍と会話をする場面もあった。

 1956年の祖父と同じように初土俵を踏み、角界の第1歩を踏み出した。「しっかり自分ができることをやるだけ」。ビッグマウスはない。ただ、視線の先には“横綱”の2文字しか見えていない。【佐々木隆史】