西前頭3枚目栃ノ心(30=春日野)が、初優勝に王手をかけた。幕内最重量215キロを誇る西前頭筆頭の逸ノ城と右四つがっぷり。最後は相手の上手を切って寄り切り、12勝1敗とした。結びで横綱鶴竜が御嶽海に敗れ、まさかの3連敗。栃ノ心が後続に2差をつけた。今日14日目の松鳳山戦に勝てば、1場所15日制定着の49年夏場所以降では、12年夏場所の旭天鵬以来20度目の平幕優勝が決まる。

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 栃ノ心の全身が、みるみるうちに朱に染まる。同じ身長192センチでも、自分より38キロ重い215キロの逸ノ城を引きつけた。得意は同じ右四つ同士。右下手を引いて、左上手もとれた。「よし出よう」。力勝負だ。1度、2度…。両腕に力を込めること8度。幕内一の巨体を寄り切ると、無数の座布団が土俵に舞った。「重かった?」と聞かれ「軽くないよ」といたずらっぽく笑った。

 力は負けない。握力は左90キロ、右87キロだが「手がでかくて、握力計に入らない」から、多分もっと強い。06年の来日まで故郷ジョージアでは柔道、サンボでならした。高さ7メートルのロープを両腕だけでよじ登り鍛えたパワー。「押す力はないけど引く力は自信ある」と笑う。昔から「まわしを取れたら何とかなる」と思っていた。

 ジョージアはすでに大騒ぎだ。テレビ、新聞、雑誌が栃ノ心の活躍を連日報道。単独トップに立った前日夜、父ザザさん、母ヌヌさんにテレビ電話をかけると、ヌヌさんが泣いた。「泣くなよって。うれし涙だからいいけど、オレも泣いちゃった」。愛妻ニノさんも電話すると、すでに緊張状態。生後2カ月半の長女アナスタシアちゃんだけが、はしゃいでいた。46年ぶりの優勝力士誕生を待つ春日野部屋にもすでに、関係者から優勝祝いのタイを準備すると連絡が入っている。

 今日、松鳳山に勝てば優勝だ。「考えるとドキドキするから、明日考えるよ」と言うが「普通にやれば、勝てる」と本音を隠せない。ハリウッド俳優ニコラス・ケイジ似の顔が、引き締まった。【加藤裕一】