西前頭8枚目遠藤(30=追手風)が、王手をかけていた大関照ノ富士の14日目での優勝を阻止した。立ち合いから終始攻め立て、土俵際で照ノ富士をひっくり返す下手投げ。行司軍配は照ノ富士に上がったが物言いがつき、約3分30秒に及ぶ協議の結果、軍配差し違えとなり星を拾った。照ノ富士を2敗に引きずり落とし、3敗を守った遠藤と大関貴景勝の3人で千秋楽に優勝を争う展開に持ち込んだ。

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静寂に包まれた館内に、伊勢ケ浜審判長(元横綱旭富士)の場内説明が流れた。約3分30秒にも及ぶ、長時間の協議。「照ノ富士の肘が先に着いており、軍配差し違えで遠藤の勝ちとします」。あまり感情を出さない遠藤だが、勝ち名乗りを受ける時に一瞬、笑みを浮かべるように表情を崩した。NHKのインタビューでこの点を突っ込まれると「放送が聞こえなくて(勝ったのが)自分だと分からなくて。それだけです」と遠藤らしく答えた。

立ち合いから踏み込み、もろ差しになって土俵際へ追い込んだ。照ノ富士に粘られて左は外れたが、深く差した右下手が生命線になった。右の外掛けの後、必死の下手投げ。軍配は照ノ富士も物言い。「必死でした。先に相手の手が着いていればいいなと思っていた」。祈った通りの結果となった。

特別な思いを持って土俵に上がっている。長らく自身の付け人を務めた三段目の大翔龍が、今場所を最後に引退。その大翔龍が相撲人生最後の一番に臨んだ13日目には大関貴景勝を破り「今日はどうしても勝ちたかった。(理由は)分かる人には分かる」と話して恩人を涙させた。2日続けての大関撃破で、引退にさらに花を添えた。

照ノ富士を1差に引きずり落とし、優勝争いに残った。「そんなにピンとこない。最後まで集中してやるだけ。明日最後だから特別、というのはない」と淡々と話し、運命の千秋楽に臨む。【佐々木隆史】