稽古相手不在の1人部屋から新入幕を果たした水戸龍(28=錦戸)が、逆境をバネに勝ち越しを目指す。11日初日の秋場所(東京・両国国技館)に向けて「今まで化け物と思っていた人たちのところで、勝ち越せるところまでいければ」と奮闘を誓った。

隣接する八角部屋で稽古に励む若い衆の野太い声が聞こえる中で、場所直前に迫った錦戸部屋は静寂に包まれていた。稽古場では白まわしを締めた水戸龍が、四股、すり足、ウオーターバッグを抱えるなどして黙々と基礎運動をしていた。師匠の錦戸親方(元関脇水戸泉)が見守る中で約1時間ほどのメニューをこなすと、体中からじんわり汗が広がった。

出稽古を行くことを除けば、相撲を取ったり、ぶつかり稽古したりする相手がいない。そんな生活も慣れたもの。学生時代から悩まされる腰の状態を見ながらマイペース調整ができる利点もあるが、「1人は寂しいね」と本音が出た。

横綱照ノ富士、小結逸ノ城とモンゴルから同じ飛行機で来日し、鳥取城北-日大に進学。学生時代にはアマ横綱、学生横綱にも輝いたが逸材も、角界入りした後は苦しんだ。入門6年目の「未完の大器」が、ようやく2人と同じ場所へたどり着いた。万全ではない腰の状況はいまだ不安だが、「稽古が十分にできない俺が勝ったら、面白いじゃん」。自分がどこまで通用するか。稽古相手がいない恵まれない環境でも、できることはあると証明する。【平山連】

◆水戸龍聖之(みとりゅう・たかゆき)本名・バーサンスレン・トゥルボルド。1994(平6)年4月25日、モンゴル・ウランバートル生まれ。2010年に照ノ富士、逸ノ城らとともに鳥取城北高に相撲留学し、日大を経て17年に錦戸部屋に入門。同年夏場所で幕下15枚目格付け出しで初土俵を踏み、18年初場所で新十両。今年の名古屋場所を9勝6敗とし、十両昇進から約4年半で新入幕を果たす。190センチ、197キロ。得意は右四つ、寄り。趣味はダーツ、ビリヤード。