日本相撲協会は26日、都内で臨時理事会を開き、伊勢ケ浜部屋で、幕下以下の2人の力士による暴力事件があり、処分したことを発表した。

幕下力士は弟弟子に対して、頭部に暴行を加えたり、背中に熱湯をかけて火傷を負わせるなどしていた。1人の力士は引退届を受理したため処分なし、もう1人の力士は来年初場所と春場所の2場所の出場停止。なお、師匠の伊勢ケ浜親方(62=元横綱旭富士)に関して、理事からの降格処分が相当と判断されたが、伊勢ケ浜親方は理事辞任届を八角理事長に提出した。

日本協会が発表した詳細は以下の通り。

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協会員の暴力行為に対する処分について

(1)事案発覚の経緯

令和4年11月7日、親族から電話で力士が背中に熱湯をかけられるなどのいじめを受けているとの相談が寄せられ、その翌日には、伊勢ヶ濱部屋所属の被害を受けた力士からも電話で同様の相談を受けた。事態を重く見た協会は、同日、伊勢ヶ濱に対し、被害を受けたと思われる幕下以下力士につき、十一月場所を休場させて実家に帰省させるよう要請するとともに、調査を実施することを通告した。

(2)コンプライアンス委員会の処分意見と理事会の決定

令和4年12月1日、八角理事長はコンプライアンス委員会に事実関係の調査と処分意見の答申を委嘱した。コンプライアンス委員会の答申内容は以下の通りである。

(幕下以下力士Aについて)幕下以下力士Aは、弟弟子である被害者の幕下以下力士Bが、普段から兄弟子の指示を聞かず、反抗的であるとして腹を立てていたところ、令和4年4月下旬頃、部屋の稽古場において、Bに対し、その頭部を腕立て伏せ用の補助具(角材)で1回殴打する暴行を加えた。また、同年7月上旬頃、名古屋場所宿舎のちゃんこ場において、AはBに対し、その腹部を4~5回げん骨で殴打した上、うずくまったBの腹部を2回くらい足で踏みつける暴行を加えた。さらには、同年8月7日頃、部屋のちゃんこ場において、Bに対し、その背中にちゃんこの湯をかける暴行を加え、火傷を負わせた。

Bの言動には、礼を失する面があったとはうかがわれるものの、それで、Aによる一連の暴行が些かなりとも正当化される余地はない。

相撲協会においては、平成29年に発生した日馬富士事件等に対する反省から、同年10月25日、八角理事長による暴力決別宣言を行うとともに、「暴力再発防止策の方針」を公表した。その後、相撲協会は、協会員に対する研修等のあらゆる機会を利用して、繰り返し、いかなる理由があろうとも暴力は許されないことを周知徹底する一方、暴力事案の発生を認知した場合には、禁止行為者やその師匠らに厳重処分をもって臨むなどして、まさに相撲協会全体を挙げて暴力根絶に向けた取組みを継続しているものである。

A自身も、本調査において、相撲協会が一丸となって暴力根絶に向けた取組みを継続していることを十分に認識していた旨述べている。それにもかかわらず、Aは、令和4年4月下旬頃から同年8月上旬頃までのわずか4~5か月の間に、3回にもわたって暴行を繰り返し、その態様も角材を用い、あるいは熱湯をかけて火傷を負わすという悪質なものであって到底許されるものではない。

したがって、Aを協会員として残すという選択肢はないといわざるを得ず、引退勧告の懲戒処分が相当と判断した。

(幕下以下力士Cについて)

令和4年7月上旬頃,名古屋場所宿舎のちゃんこ場において、幕下以下力士Cは、Bに対し、その腹部等を4~5回げん骨で殴打した。既に、Aによる暴行を受けていたBに対し、同人がまだ反抗的な態度を示していると決めつけて、一方的に更なる暴行を加えたものである。これは、Aと同様、相撲協会における暴力根絶に向けた取組みを裏切る行為であり、相応に厳しい処分をもって臨む必要がある。

他方、CのBに対する暴行は1回に止まり、兄弟子のAによる暴行に触発されて偶発的に暴行に及んだとの側面もある。また、暴行に及んだ後すぐに、CはBに対して謝罪しており、調査においても、如何なる処分も受ける旨真摯に反省した。

以上の事情に鑑みて、Cに対しては、その将来性も考慮し、出場停止の懲戒処分が相当と判断した。

(師匠である伊勢ケ濱親方について)

伊勢ヶ濱親方は、A及びCの師匠として、同人らが、相撲協会暴力禁止規程に規定される禁止行為を行うことがないように監督すべき立場にあるから、同規程の「禁止行為を行った者を監督すべき立場にあるのに監督を怠った」との懲罰事由に該当する。

伊勢ヶ濱親方は、本調査において、弟子らに対して暴力は絶対に許されない旨を指導するのは勿論のこと、暴力被害を受けたり、見掛けたりしたら報告するよう指導していたと主張している。しかしながら、Aによる暴行は約5ヶ月間に3回にわたって繰り返されていた。

この間、被害者Bが伊勢ヶ濱親方にAやCからの暴力を自ら申告・相談したことはなく、AやCによる暴行の場面に居合わせた他の弟子らも、その事実を伊勢ヶ濱親方に報告したことはなかった。

このような事情に鑑みれば、伊勢ヶ濱親方による指導は表面的なものであって、弟子らに浸透していなかったというほかなく、その監督懈怠は明らかというべきである。

また、伊勢ヶ濱親方は、令和4年10月上旬頃、Aが故意に煮立ったちゃんこをBの背中にかけて火傷を負わせた事実を把握していながら、相撲協会に報告していなかった。

このような報告義務違反に軽い処分をもって臨むようであれば、他の協会員らに示しがつかない。

伊勢ヶ濱親方には、弟子である横綱日馬富士による暴行事件を防げなかった過去がある。

この事件に際しては、伊勢ヶ濱親方が理事辞任を申し出たことを考慮されて懲戒処分を科されることこそなかったものの、事実上、降格処分を受けたに等しい。

このような経緯に照らせば、伊勢ヶ濱親方は、より一層、弟子らの生活態度や言動に目を配りながら、風通しのよい部屋作りに努めるなどして、暴力事案発生の兆候を把握し、その発生を未然に防止することが求められていたといえる。それにもかかわらず、令和2年3月に理事に復帰してからわずか3年足らずのうちに、AやCによる本件暴力事案の発生を許したのみならず、相撲協会への報告も怠ったのであり、過去の経験を教訓とすることができていないといわざるを得ない。

以上の事情を勘案すると、伊勢ヶ濱親方につき、公益法人であり、かつ、暴力根絶を誓った相撲協会の理事の職にとどまらせることは不適当というべきであるから、降格の懲戒処分(評議員会に対する理事解任決議の上申)が相当と判断した。

(Aの引退届及び伊勢ケ濱理事の辞任届について)

Aは、事態の重大性を認識・反省し、被害者Bに対する謝罪の念を表明したうえで、伊勢ヶ濱親方と相談した結果、相撲界から身を引く決断をし、師匠が引退届を提出した。

また、伊勢ケ濱親方は、複数の弟子による暴力行為が発生したことを深く反省し、協会運営に多大な影響を与えてその信用を傷つけたことから、理事としての責任を痛感し、理事辞任届を理事長に提出した。

本日の理事会では、コンプライアンス委員会の処分案を踏まえたうえで、幕下以下力士Aについては、引退届を受理して処分なし(ただし、引退勧告の懲戒処分相当であることを確認)、幕下以下力士Cについては、懲戒処分の出場停止(一月場所及び三月場所の2場所)、師匠の伊勢ケ濱理事については、理事辞任届を受理して処分なし(ただし、降格の懲戒処分相当であることを確認)とすることを決議し,Cに対して出場停止処分を通知した。

なお、Aは責任を取って引退したこと、Cは未だ若年で将来がある点を考慮して、仮名による公表とした。

(3)今後の対応

全協会員に対して、暴力は絶対にしてはならない旨をあらためて通知するとともに、12月27日開催予定の年寄総会において、師匠・年寄に対して、厳しく弟子の行動を指導・監督すること、万が一暴力が発生した場合の報告を徹底することを通知する。また、次年度2月に実施予定の協会員研修において、暴力問題撲滅への啓発を行う。