錦木という力士は、地味な存在かもしれません。腰の重さ、力の強さばかりが強調されます。もちろん、それも強さの一因ですが、プロの経験者として彼の努力のたまものや、ちゃんと考えて取っていることは見逃せません。まずはこの日の立ち合いです。若元春が右を引っ張り込むのを見越して、左の前まわしを狙いました。ガラ空きになった若元春の右を取って引きつければ、今の錦木なら勝負は一瞬でつきます。

錦木は最近、急に強くなったように言われますが、私はそうは思いません。去年ぐらいから地力をつけた上で、欠点を克服しようとしたことを感じます。たびたび指摘された脇の甘さです。引っ張り込んで小手投げを打つなどは悪い癖でしたが、それを直そうと懸命に努力したと思います。私のここまでの相撲人生を通じても、脇の甘さを直した力士は見たことがありません。これは本当にすごいことで、いつか褒めてあげたいと思っていました。両手をしっかり着いた立ち合いには心の安定が表れているし、攻められて下がるにしてもしっかり計りながら間合いを作っていることも見逃せません。技術的に細かい部分で努力の跡が感じられます。地道に努力を重ねれば結果で報われる。そのことを今の錦木が体現しています。(日刊スポーツ評論家)