大相撲名古屋場所(9日~愛知・ドルフィンズアリーナ)で大関取りに挑む福島市出身の関脇若元春(29=荒汐)は小さい頃、相撲嫌いだった。若元春は、3月春場所で小結で11勝、5月夏場所では新関脇として10勝をマーク。今場所で自己最多の12勝を挙げれば、大関昇進の目安となる「直近3場所で33勝」に到達する。若元春は5日目を終えて3勝2敗。日刊スポーツ東北版では、若元春の父、大波政志さん(56)にインタビュー。大関昇進を視野に入れる関脇の素顔や幼少時代について聞いた。

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絵を描くことや物づくりが好きな温厚で優しい子だった。政志さんは若元春の幼少期を思い返し、「歌ってもうまいし、絵も描かせてもうまい。字もそこそこうまかったし、物をつくらせても一生懸命集中してつくる。芸術の才能があったね」。勝負ごとよりも芸術方面に関心があり、小学校からの帰り道は、よく歌を歌いながら帰ってきたという。

一方、相撲は大嫌いだった。「相撲はとにかく嫌。嫌い。やりたくないっていう。角界に入ったぐらいの時に『本当は嫌いだったんだよね』と言っていた」。大波家は、祖父が元小結・若葉山、政志さんは元幕下・若信夫(わかしのぶ)の相撲一家であり、相撲が絶対の環境で育った。さらに兄・若隆元(31=東幕下19枚目、荒汐)と弟・若隆景(28=西前頭12枚目、荒汐)は相撲が大好きと逃げ場は一切なし。兄弟2人が練習メニューを全部こなし、「次の練習は」と躍起になっている横で、若元春はメニューを半分ほど終えたところで泣きごとを言っていたという。

それでも相撲のセンスは3兄弟の中でピカイチだった。相撲を取らせると一番良い成績を残したが、中でも政志さんが驚いたのは、若元春が中学校3年生の5月、とある大会のアップ中だった。「『ちょっと突っ張ってみろよ』と言ったら、驚くぐらい突っ張れた。普通『突っ張れ』って言われて突っ張れるやつなんていないのに、本当に突き押しみたいな相撲、突っ張りをした」

小学校から左四つで相撲を取っていたが、政志さんのその一声をきっかけに、その日はそのまま突き押しで対戦。突然の型の変更にもかかわらず、8強まで勝ち上がった。「相撲をゴロッと変えて、いきなり実績を残すとか、なかなかそんな子はいないから…。そういう意味では非凡なところがあった」。そこから「突き押し相撲」に取り組み、角界入り後も突き押し相撲で白星を挙げた。「俺よりは随分、優れているんだろうな。何をとっても」と、父も手放しで褒める才能だった。

名古屋場所で大関取りだ。政志さんは千秋楽をパブリックビューイングで観戦予定。「せっかくのチャンスだから。上がれるときに上がっておかないとね」と大関昇進に期待を寄せる。若元春は小学校の卒業文集に「名前を言えば誰でも分かってくれるような力士になりたい」と書いていたという。「もっと立派な力士になってほしいですね。まだまだ強くなるからね、こいつは」。期待を込めて、夢へと近づくわが子を見届ける。【濱本神威】