関脇琴ノ若(26=佐渡ケ嶽)が、初優勝と大関昇進へ、大きな白星を手にした。2敗で先頭に並んでいた、綱とりの大関霧島を破って12勝2敗とした。取組前までの霧島との対戦成績は、幕内では2勝8敗、十両を含めた通算では3勝10敗と、大きく負け越していた。特に直近は4連敗中、前日13日目は横綱照ノ富士に敗れていただけに、嫌な流れを断ち切る白星となった。

この日、予定されていた照ノ富士と、大関豊昇龍の結びの一番は、豊昇龍の休場で、照ノ富士が2敗を守ることが早々に決まっていた。千秋楽の取組は、14日目の打ち出し後に決まるため、この日の取組直後の時点では未定。ただ、慣例に従えば、千秋楽の結びの一番は、出場力士の中で番付上位2人が顔を合わせるため、照ノ富士-霧島戦が組まれることが濃厚だ。もしもこの日、琴ノ若が敗れて3敗に後退していれば、照ノ富士-霧島戦が2敗対決となり、琴ノ若の初優勝の可能性は、千秋楽を待たずに消滅していた。また、照ノ富士、霧島に連敗なら、自身よりも番付上位から白星を挙げることができないことが決まり、昇進機運に水を差されることになっていた。

前日の照ノ富士戦後、支度部屋では重苦しい雰囲気を漂わせていた。記者の質問には「切り替えるしかない」などと、短い言葉で答える程度。何度も唇をかんでいた。千葉・松戸市の部屋までの、帰りの車に乗るなり「悔しーっ!!」と絶叫した。新入幕だった19年7月の名古屋場所から、1場所を除いてずっと付け人を務めている弟弟子の三段目琴ノ藤は「温厚で優しい人。あんなに感情を表に出したのを見たのは初めて」と、驚いたという。照ノ富士戦は全敗。幕内では6度目の対戦でも勝てず、押し殺していた悔しさを、同部屋の仲間たちだけとなった場で爆発させていた。

前日の取組では、相手に右を抱えられて振り回されたが、この日の朝は右上腕に電気を通す治療を施していた。いつもよりも早めの時間に土俵に降り、四股、すり足などの基礎運動で汗を流した。ただ痛みなどがあるか問われても「大丈夫です」とだけ話した。

何よりも気力が高まっていた。車中で叫んだ前日の取組後、部屋に戻ると稽古まわしを着けた。1時間近く、四股やすり足などで汗を流したのは、いてもたってもいられなかった証拠。右腕のことを忘れさせるほどの雪辱の思い、この日の取組に懸ける思いがあった。

この日の朝には「引きずっても仕方ない。集中するだけ」と、切り替えていた。右腕に機械で電気を通す治療を終えた後は、父で師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)と約5分話し込んだ。琴ノ若は「師匠からは『残りも自信を持ってやるしかない』『思い切っていけ』と言われた」と、細かな技術指導ではなく、ここまできたら一段と奮起を促していた。取組直後の段階では、千秋楽の対戦相手が決まっていないが、常々「相手が誰でも関係ない。自分の相撲を取るだけ。やってきたことを信じてやるしかない」が口癖。自分の相撲を取った先に、初優勝、大関昇進のどちらも手にする未来があると信じている。

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