110年ぶりの快挙へ、新入幕の尊富士(24=伊勢ケ浜)が大きな壁を突き破った。1敗で追っていた大の里を押し出して、初日から10連勝。優勝争いも2番手との差を「2」に開き、1914年(大3)5月場所の両国(元関脇)以来となる新入幕Vや、両国の所要11場所を上回る9場所のスピード優勝に大きく前進した。11日目は2敗を守って勝ち越した新大関琴ノ若との初大関戦に挑む。

 

▽全勝 尊富士

▽2敗 琴ノ若、大の里

▽3敗 豊昇龍、貴景勝、豪ノ山、高安、御嶽海、湘南乃海

 

大相撲第何世代になるのだろうか。新時代の力士に重圧、緊張はまるで無縁だった。賜杯に向けた大一番を制しても、尊富士はあっけらかんだった。「気分は全く変わらないです」。揺らぐことがない強心臓を問われ「心臓ないかもしれないッス」と笑って言った。

大の里を圧倒した。日大の尊富士、日体大の大の里。大学はしのぎを削るライバル関係だが、個人での実績は大きく水をあけられた。アマ横綱などエリート街道を突っ走った大の里は、幕下10枚目格付け出しのデビュー。一方で在学中、左膝に大けがを負った影響もあり、個人の成績を残せなかった尊富士は前相撲からスタートした。

「学生時代、自分は記録を持っていない。大相撲で必ず勝ってやるという気持ちで稽古していた。早い段階で実現できてよかった。自分は知名度なく、下から頑張ろうと思って入門した。部屋で横綱、関取の背中を見ながら積み重ねてきたものがかなえられたんで、うれしく思います」

実績による幕下付け出しなどの入門ではなく、序ノ口から努力してきた意地が上回った。「右を差されたら絶対に負けると思っていたんで」。相手の得意を知り尽くした上で、徹底的に攻め抜いて押し出した。「歓声がけっこうすごいなと思ったけど、土俵は大の里関と2人だけだったんで。真っ向からいい相撲をとろうと思った」。土俵はまるで2人のステージ。主役を争う戦いに完勝した。

10連勝。大横綱大鵬が新入幕時に記録した11連勝に迫る。そして星差を2に広げ、110年ぶりとなる新入幕優勝、優勝制度ができた1909年(明42)夏以降最速の所要9場所での快挙へ大きく前進した。

尊富士は「優勝の意識は全くない。相撲は勝ち負けしかない。自分の相撲をとりきれるよう頑張ります」。令和のシン怪物か。“新人”で上陸した大阪で、大暴れは続く。【実藤健一】

▽幕内後半戦の佐渡ケ嶽審判長(元関脇琴ノ若) 尊富士は新入幕らしい相撲。元気いっぱいでいい。相撲に迷いがない。波に乗っている。(11日目は琴ノ若と対戦)お互いの良さが出れば。(結びの一番で変化した豊昇龍には)大関らしい相撲を取ってほしいんですけどね。

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