香港ノワールの代表作「インファナル・アフェア」(02年)は、その設定の妙でハリウッドや日本でもリメークされることになった。マフィアに潜入した捜査官と、そのマフィアから警察に潜入した男のヒリヒリするような神経戦が記憶に残っている。

韓国映画「悪人伝」(17日公開)にも、同レベルのオリジナリティーがある。現にシルベスター・スタローンがリメークに名乗りを上げているという。

夜道で前を行く車に意図的に追突し、降りてきた運転手をめった刺しにする事件が起きる。警察幹部は行きずりの強盗事件と断定するが、熱血漢のテソク刑事だけは過去にあった同様の事件と結びつけ、連続無差別殺人鬼の存在を主張する。

一方、ヤクザの組長ドンスは抗争続きの業界を生き抜くタフな男だ。偶然が重なり、このドンスがその連続殺人鬼に襲われたことから、物語は一気に回り出す。タフなドンスは重傷を負いながらも、被害者全員を抜け目なく葬ってきた殺人鬼を追い払い、ただ1人の生き証人となったのだ。

曲折はあるのだが、結びつくはずのなかったテソク刑事とドンスは殺人鬼という共通の敵のために共闘することになる。この刑事とヤクザのバディ関係に作品の妙味がある。

ドンスには近作「新感染 ファイナル・エクスプレス」が記憶に残る怪優マ・ドンソク。チョン刑事には武井壮に似て、こちらもタフなイメージをまとったキム・ムヨルがふんし、そろって熱のこもった演技を披露する。

「隊長キム・チャンス」(17年)のイ・ウォンテ監督が前作同様の脚本兼務で、複雑な要素を分かりやすく組み立てている。拳がめり込む音が聞こえるようなリアルなアクション。2人の体の張り具合には感服だが、ドンスの全身入れ墨や彼に殴られた者たちの顔など、随所にていねいな特殊メークがほどこされ、リアルなトーンが貫かれる。

ドンス、テソク刑事、そして殺人鬼。それぞれのしたたかさを積み上げるように描き、複雑な出し抜き合いが作品の厚みとなる。

韓国映画には、その手があったのか、という驚きがまだまだある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「悪人伝」の1場面 (C)2019KIWIMEDIAGROUP.ALLRIGHTSRESERVED
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