7月29日に劇場公開されて大ヒットした「シン・ゴジラ」がついに米国上陸を果たし、劇場は大勢のファンでにぎわっています。今月11日から1週間限定で公開された「シン・ゴジラ」の北米でのタイトルは「Godzilla Resurgence(ゴジラ・リサージェンス)」。リサージェンスは復活や再生という意味なので日本語では「ゴジラ復活」ということですが、それほど大々的に宣伝もしていませんでしたし、インディペンデント系劇場を中心に公開館数も全米で488館(初日)と小規模なので、マニアが見に来る程度かと思っていましたが、公開初日は全米興行収入ランキングで10位に食い込む快挙となりました。映画の都ハリウッドでは公開6日目となった日曜日の朝も劇場前には長蛇の列ができ、映画が終わるや否や拍手と歓声に包まれていました。もちろん、観客のほとんどがアメリカ人で、いかに日本のゴジラがアメリカで人気があるのかがうかがえます。

 アメリカでゴジラといえば、多くの人にとっては公開週末に9300万ドルの興行収入を上げる大ヒットとなったギャレス・エドワーズ監督の「GODZILLA」(14年)ですが、1998年にも「インディペンデンス・デイ」のローランド・エメリッヒ監督が手掛けた「GODZILLAゴジラ」が製作されています。しかし、こちらはあまりにも評判が悪く、ある意味なかったこととして忘れ去られています。エドワーズ監督は子供のころからゴジラ映画の大ファンだったと公言していますが、シリーズ第1弾「ゴジラ」(1954年)は、主演をアメリカ人の俳優レイモンド・バーにして再編集されて「怪獣王ゴジラ」として56年に全米で公開され大ヒットしました。多くの人たちが日本の怪獣に夢中になり、ゴジラは瞬く間にアメリカ人の間に広がっていったといわれています。そのため、日本のゴジラは今もアメリカで根強い人気を誇っているのです。

 「シン・ゴジラ」はアメリカでも人気の「エヴァンゲリオン」シリーズを手掛ける庵野秀明監督がメガホンをとるということで公開前から一部ファンの間では注目を集めており、予告編を見た人たちからは「ワクワクする」と本編に期待する声が上がっていました。一方で、吹き替えではなく字幕だったことや、ゴジラが暴れ回るシーンよりも会議室でのやり取りが長くてアメリカ人には退屈なのではないかとか、出演者の英語力などを懸念する声もありましたが、劇場では皮肉たっぷりの会議室でのやり取りに何度も大笑いが起き、終了後の「クール!」「オーサム(サイコー)」という反応からも満足度がうかがえます。SNSには「字幕が多くて見にくかった」「キャラクターが多く、退屈な会話もあった」という声もありますが、「最高だった」「今まで見た中で一番のゴジラ」といった好意的な意見も多く、ゴジラファンの間ではハリウッド版よりも良かったとの声が多いようです。

 米メディアは、これまでのシリーズの中で、本作はゴジラがもっともダークでグロテスクに描写されていると言及。一方で、現代の日本が抱える多くの政治問題をうまくゴジラに反映させているとも指摘し、怪獣映画ながら日本の政治批判の映画でもあると伝えています。ハリウッド・レポーター誌は「国家主義的」という表現を使っていますが、謎の巨大怪獣出現を目の前に奮闘する政府の危機管理がリアルに描かれているのみならず、日米関係についても突っ込んで描いていることを挙げていますが、多くの人はそれほど嫌悪感は示していないようです。IMDb(インターネット・ムービー・データーベース)ではハリウッド版「ゴジラ」よりも高い評価を与えており、間違いなく「シン・ゴジラ」はアメリカのゴジラファンの心に響いているようです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)