6日にゴールデン・グローブ賞のノミネーションが発表され、今年もハリウッドの賞レースが華やかに幕を開けた中、来年2月24日に行われる第91回アカデミー賞授賞式の司会に抜てきされたケビン・ハートが過去の差別的ツイートが原因で発表からわずか2日で降板する騒動が勃発しました。ハリウッドでは今夏にもジェームズ・ガン監督がやはり過去のツイートを理由に「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ第3弾の監督をクビになっており、SNS社会において過去の発言を蒸し返して批判することへの論議が高まりそうです。

「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」(17年)や「セントラル・インテリジェンス」(16年)などヒット作にも出演しているハートは、近年の目覚ましい活躍で若者に人気のコメディアンです。視聴率低迷に悩むアカデミー賞授賞式において、2年連続司会を務めたベテランのジミー・キンメルからバトンを引き継いだハートは、「長年の夢がかなった」と喜びのコメントを発表し、視聴率アップも期待されていた矢先、10年ほど前に同性愛者への差別的発言をしたツイートが掘り起こされて批判を浴びることとなりました。問題視されたのは、2009年から11年にかけてツイートしたもので、「もしも息子が娘と家で人形遊びをしようとしたら、人形の家を頭の上でたたき壊して、“やめろ。それはゲイだ”と言うね」などとつづったもので、中には「ホモフォビア」という同性愛者に対する嫌悪感や拒絶を表す差別的用語を使ったものもあったといいます。同性愛者の人たちなどから批判が寄せられ、すでにこれらのツイートは削除されていますが、アカデミー賞の司会者に大抜てきされたのを機にが改めてこの時の発言が注目されることとなったのです。

批判を受けたハートは自身のインスタグラムで、「何年も前のツイートである」と釈明。さらに「俺ももうすぐ40で、人は変わるし、成長もする」などとコメントし、「過去の発言からネガティブになる理由、怒る理由を探すのはやめよう」と過去の発言を蒸し返して改めて攻撃することに意味はないと呼び掛けた。しかし、授賞式を主催する映画芸術アカデミーからは公に謝罪することを求められ、それができなければ新しい司会者を探すことを通告されたハートは、「このことは以前にも説明をしてきたことだ。昔のことをいつまでも持ち出して、言い訳をさせるのか」とコメントし、謝罪はせずに司会を降板する道を選択したことを自ら公表しました。「自分のせいで素晴らしい才能を持つ多くのアーティストたちが祝福されるべき夜を邪魔したくない」と理由を説明し、最後は「LGBTQコミュニティーに対して過去の無神経な発言について心からおわびします」と締めくくっています。

ハートのツイートは10年近く前のもので、同様にガン監督がクビになった理由も2008年にセクハラや差別的発言と取られる内容のツイートをしていたことでした。10年前と今では時代も人々の考え方も大きく違っていますし、ハートが言うように人間も成長しています。当時は受け入れられたジョークも今ではタブーというようなことはあり得ることで、どこまで過去の発言に対して制裁すべきなのかはとても難しく、SNSがこれだけ発達した今となっては自己防衛するには一切のデジタルメディアをシャットダウンして生きるしかない時代に来ているのかもしれません。

今回の降板騒動を受けて、「アカデミー賞の司会は誰も引き受けたがらない仕事」との声も出ていますが、責任が重く、視聴率の重圧、さらにはこうして過去の言動まで批判の対象とされれば、もうなり手が見つからなくなってしまうというのも分かる気がします。キンメルが一昨年初の司会を務めた際にギャラは1万5000ドルだと明かしていましたが、オスカーの司会という栄誉を考えると妥当なのか安いのか分かりませんが、今回のようなことが続けば割に合わないと言われても仕方がないかもしれません。次の司会者はまだ発表されていませんが、何をしても批判されるのであれば、過去の発言にまでさかのぼってクリーンな人選をするのは至難の業かもしれません。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)