テレビ界で最も栄誉ある賞とされる今年のエミー賞に、ハリウッドで活躍する徳永優子さんが、「アウトスタンディング・ヘアースタイリング」部門で日本人として史上初となる4度目のノミネートを果たしました。16歳から着物を学び、美容家、和装トータルスタイリストとして日本で活躍した後、2001年に渡米した留学中に映画「SAYURI」(05年)で着物コンサルタントの仕事を得るチャンスに恵まれ、それを機にハリウッドでヘアスタイリストとして活動の場を広げていった徳永さんは、これまで「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」(07年)やビヨンセ主演の「ドリーム・ガールズ」(06年)など数多くの映画やドラマで活躍。08年にドラマ「プッシング・デイジー 恋するパイメーカー」でエミー賞に初ノミネートされて以降3年連続でノミネートされるも受賞にはいたりませんでしたが、今年は世界中から集まったダンサーたちが競い合うライブ番組「ワールド・オブ・ダンス エピソード3」で、10年ぶりとなるノミネートを果たしました。映画やドラマの世界からスピードと臨機応変な対応が求められるライブ番組に仕事の方向性を変えたことが転機になったと語る徳永さんに、初受賞に向けた意気込みなどを伺いました。

時間をかけてきれいに仕上げる映画やドラマの世界とは異なり、生放送のライブ番組は決められた時間での一発勝負。その世界に飛び込むきっかけとなったのは、第一線で活躍する著名ヘアスタイリストのディーン・バノーウェッツ氏からのスカウトだったと言います。

「言葉の壁がありましたし、アメリカで生まれ育っていない私には文化や歴史など作品の背景が分からないことも多く、土俵の違いからジレンマや悔しさを感じる日々に限界を感じていた10年前、「ハンガー・ゲーム2」(13年)の現場でディーンさんと出会いました。私の仕事を見た彼から“君を雇いたい”と電話番号を聞かれ、その時はハリウッドの社交辞令だろうと思っていたら、1週間後に電話がきて飛び上がって喜びました。そして、イギリス発のオーディション番組「Xファクター」の仕事をすることになり、それからはチームの一員として彼らが手掛けるライブ番組に携わっています」

ライブ番組に転身して10年。自ら編み出したエフェクトヘアーと呼ばれる特殊技法を使ったヘアデザインとスピード感が評価されてのノミネートとなりました。

「日本を含む世界各国から集まったダンサーたちがライブで競い合う番組ですから、スピードはもちろんですが、決められた時間で激しい踊りでも崩れない完璧なスタイリングをする技術も必要とされます。トレンディー性や世界の方たちが望んでいるデザインに上手くアプローチできたのが評価されたのではないかと思っています。突然カメラアングルを変えたりなど決まっていて決まっていない部分も多く、ライブならではの苦労もたくさんありますが、今回、自分が最も得意とするスピード性あるライブショーでノミネートされたことは本当に嬉しいです。日本から単身乗り込んだハリウッドのエンターテインメントビジネス界で苦労してやってきた分、番組に出演する海外から来たダンサーたちの気持ちも分かりますし、一方で現地のアメリカ人のプロデューサーたちの考えや番組のコンセプトや趣旨も分かるので、自分なりの考えやディレクションを才能ある若いダンサーたちに伝えられるのは、やりがいのあるポジションだと思います」

今ではライブ番組こそ自分の力を最大限に発揮できる場だと実感していると言います。

「ドラマや映画の仕事をしていた時に、たまたまマイケル・ジャクソンさんのバックダンサーのヘアーを担当するチャンスに恵まれ、その時にライブの仕事は自分に合っていると感じました。残念ながらマイケルさんが亡くなってロンドン公演も中止になってしまいましたが、気づきを与えてもらい、この世界に入るきっかけを作ってくれたお仕事でした。ライブはまさに毎回が一発勝負の緊張感漂う世界ですが、決められた時間が分からない中でタイミングを見計らって、他の人たちと調和しながら、自分の仕事を形にするバランス性が求められる現場でもあります。様々なシチュエーションに合わせた咄嗟の判断や柔軟性がライブ番組の楽しさでもあり、緊張感でもあります。空気を読みながら自分が持っている力を存分に発揮するのは自分が得意とする所であり、それは醍醐味でもあります」

単身ハリウッドに飛び込み苦労して掴み取った新たな挑戦で、来月発表される授賞式で初のエミー賞受賞にも期待が持たれています。

「10年前は手探り状態の中で運だったり勢いだったりで、がむしゃらにやってきた中で3回ノミネートされましたが、今はまったく違います。勝負するにはライブショーなのではないかと10年前に気がついて、矛先を大きく変えてやってきたことがようやく形となり、価値ある仲間たちと一緒にここまでやってきたので、今年こそはトロフィーを手にしたいですね」

ヘアメークアーティストとして活躍する傍ら、ロサンゼルスでサロンと美容学校KCビューティーアカデミーも経営する多忙な毎日を送る徳永さん。

「学校は2人の娘たちが継いで今は経営からは離れていますが、サロンで日本からの美容師の受け入れなど海外進出のお手伝いや日本での教育などオールマイティーにやっています。この10年で自分がエンターテインメントビジネスに還元できるものが何かということが把握できるようになり、自分の培ってきたアメリカでの経験をアウトプットして日本に還元する準備もバランス良く進めてきましたから、これからは育ててもらった日米の業界に恩返しをしていきたいと思っています」【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)

一緒に仕事をするチームのメンバーたち。右が徳永さん、左から2番目がディーン・バノーウェッツ氏(撮影はロサンゼルス千歳香奈子)
一緒に仕事をするチームのメンバーたち。右が徳永さん、左から2番目がディーン・バノーウェッツ氏(撮影はロサンゼルス千歳香奈子)