映画のオンライン配信を巡って米ユニバーサル・ピクチャーズと世界最大大手のシネコンチェーンAMCが、激しいバトルを繰り広げています。

ことの発端は新型コロナウイルス感染拡大を受けて世界各国で映画館が閉鎖される中、ユニバーサル・ピクチャーズが先月10日に全米公開予定だったアニメ映画「トローズ・ミュージック☆パワー」を同日からネットで配信したことでした。メジャースタジオとして初めての試みは、購入後48時間視聴で19.99ドルと高額料金ながら自宅待機命令でコンテンツに飢えている人たちが飛びつき、配信から3週間で1億ドルを超える収益を上げる大ヒットとなりました。この結果を受けてユニバーサル・ピクチャーズは、映画館が再開された後も劇場公開とネット配信を同時展開する可能性を示唆。これに対してAMCはさっそく、「全米、欧州、中東全てのAMCの劇場で今後一切ユニバーサル・ピクチャーズ作品を劇場公開しない」とかみついたのです。

柵が設置されて入場ができなくなったチャイニーズ・シアター(20年3月28日撮影)
柵が設置されて入場ができなくなったチャイニーズ・シアター(20年3月28日撮影)

米国では3月中旬から閉鎖が続く映画館業界は窮地に立たされており、AMCは夏までに営業が再開できない場合は破綻する可能性も取りざたされています。一方で、新作映画を公開できないスタジオ側も、パラマウント・ピクチャーズやワーナー・ブラザースなどが次々と劇場再開を待たずして新作映画をオンライン配信することを決め、この流れは止められそうにありません。本来は劇場公開からオンライン配信まで90日の期間を空けるというルールが存在しており、今回はあくまでコロナ禍の中での特例だったはずで、今後も継続するのは話が違うというのがAMC側の主張なのです。

もちろん、この状況下で映画館が再開してもパンデミックス前と同じように観客が劇場に戻ってくる保証はなく、配給サイドとしては配給ビジネスモデルを考え直す時期に差し掛かっているとも言えますが、Netflixなど動画配信サービスの台頭で存続の危機に直面している劇場側からするとユニバーサルの発言は看過できないことだったのでしょう。業界2位のリーガル・シネマズもAMCに同調しており、コロナ終息後の映画ビジネスの在り方が大きく変わってくるかもしれません。

ユニバーサル・ピクチャーズはすでに大ヒットシリーズ「ワイルド・スピード」最新作の公開を1年間延期していますが、このままでは同シリーズを劇場で見られなくなるだけでなく、来夏公開予定の「ジュラシック・ワールド」や「ミニオンズ」の最新作、「SING/シング」続編など人気作の劇場公開などにも影響が及ぶことになりそうです。

米国では半数以上の州で自宅待機命令が1日から段階的に緩和され、テキサス州では休業していた映画館の一部が1度に入館できる観客を25%まで減らして客同士が隣合わせにならないなどの感染防止策を設けて営業を再開しましたが、多くの映画館が従業員と観客の安全を確保できないなどとして再開を見合わせています。いつ再開できるか目処が立たず、再開後も様々な感染防止策が強いられるため、映画館の在り方も大きく変化することは避けられないでしょう。これからはオンラインで映画を見ることが当たり前の世の中になっていくのか、ポストコロナ時代の映画界の在り方に注目が集まっています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)