歌舞伎専門の月刊誌「演劇界」が3月発売の4月号を最後に休刊することが発表された。1907年創刊の「演藝画報」の流れをくみ、43年に「演劇界」として創刊された。

劇評や出演者のインタビューなどを掲載し、唯一の歌舞伎専門誌として親しまれてきた。若手の歌舞伎俳優は「演劇界でインタビュー記事の掲載、表紙を飾る」ことを目標にしていた。その1人、市川海老蔵も自身のブログで休刊を惜しんだ。「若い頃いつか自分も演劇界の表紙になりたい!その気持ちが強かった」と明かし、自らが表紙を飾った「演劇界」をアップで紹介。「いつのまにか沢山そして大変お世話になりました。涙。いつかまた復活することを願っています。休刊と言うことで、ただただ残念です。思い出しかない、そしてありがとうございます」。

歌舞伎を取材する記者も、「演劇界」に執筆することは特別だった。私は30代で「今月の新劇」のタイトルで新劇系の舞台4、5本を取り上げた劇評を毎月1ページ、10年ほど書かせてもらった。その後、歌舞伎俳優が現代劇、ミュージカルに出演した公演の劇評などを書き、今月も海老蔵の新作歌舞伎「プペル」の劇評を依頼された。いざ書こうと思っていた時に、突然の休刊発表を聞いた。

正直驚いた。コロナ禍もあって歌舞伎座の観客は減少し、演劇界の部数も低迷していた。ただ、歌舞伎界の隆盛にとって、「演劇界」という雑誌は不可欠の存在だった。松本幸四郎もブログで「歌舞伎をご覧になっている方や歌舞伎をこれから知っていただく方にとって最高のバイブルであり、観劇記念でもあり、ナビゲーターでもあります」と書いたが、その通りだと思う。「演劇界」の休刊は、単に1つの演劇雑誌がなくなることにとどまらず、今後の歌舞伎界にとっても大きな損失になるだろう。そして、今月号で尾上右近が表紙を飾っているように、若手たちが表紙を飾る姿を見られないのは、何とも寂しい。幸四郎はブログで「必ずや必要不可欠なものだと多くの方に思っていただける時代にしたい」と決意表明しているが、「演劇界」の復刊は次代を担う歌舞伎俳優たちの頑張りにかかっている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)