原作は、人気ミステリー作家横山秀夫氏の小説。寝静まった家に忍んで盗みに入る「ノビ師」と呼ばれる窃盗犯が主人公だ。ミュージシャン山崎まさよしが14年ぶりに長編映画に主演し、過去を引きずる無口なノビ師を演じている。

横山氏の作品は大部分が映像化されているが、当作は長く映像化されなかった。犯罪ものらしくない、重要なファンタジー要素があるからだ。ネタバレ厳禁の核心部分であるため、映像化は難しいとされてきた。どう表現しているのか楽しみにしていた。結論からいえば、身構えて見ていたところをひょいと、ごく自然に乗り越えてきた。どうだ、という感じがないのが良かった。

前半から山崎と北村匠海のバディ感に引き込まれ、ネタバレ要素を知っていながらも、考えなくなる瞬間が多々あった。最初から見返したいとさえ思った。

善と悪、生と死、愛と憎しみの表裏一体さを、説明過多にならず表現している。現代が舞台なのに(「2019年」の文字が見える場面がある)、昭和な雰囲気が不思議。そういえばスマホの登場は1回だけ。面と向かった生のやりとりが魅力的だ。篠原哲雄監督。

【小林千穂】(このコラムの更新は毎週日曜日です)