フランス革命で軍人として頭角を現し、皇帝として欧州の大半を制覇したナポレオンは、誰もが知り、最後は自滅していく波乱の人生に興味が尽きない。

「グラディエイター」のリドリー・スコット監督がこれでもかという物量と統率力で会戦シーンを再現。「ジョーカー」の巧者ホアキン・フェニックスは何とも人間くさい。決定版だ。

砲兵将校時代の夜襲前、緊張で過呼吸気味になるリアルな表情が生身のナポレオンを実感させる。一転、戴冠式は色彩と陰影の妙で、まるでダヴィッドの名画が動いているようだ。

会戦シーンは8000人というエキストラの動きに気配りが利いていて、どれも血なまぐさいが、ロシア・オーストリア連合軍を破ったアウステルリッツの戦いが最大の見どころだ。氷上に誘い込まれ、砲撃で湖に沈められる敵軍を迫真の水中カメラが追う。消耗戦だったナポレオンのやり方の残酷さを印象づける。

半面のもろさを浮き彫りにするのがジョセフィーヌに翻弄(ほんろう)される姿だ。「私というパズル」のヴァネッサ・カービーが、この愛妻の気まぐれな振る舞いを巧みに演じ、憎らしいくらい魅力的だ。【相原斎】

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