「あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは、決してあなたを踏みにじらない」
目前で起きた交通事故で両親を亡くした15歳の田汲朝に、小説家の叔母・高代槙生がかけたひと言が作品の本質を全て言い表している。槙生は折り合いが悪く交流がなかった姉の娘・朝が引き取り手もないのを見て同居を決める。その視線は真っすぐで揺るぎない。
新垣結衣は、23年「正欲」で演じた特殊な性癖を持つ女性、そして今回演じた人見知りで無愛想な槙生と、30代半ばに差しかかり本当に演じたい、演じなければいけない役、作品に踏み込んできたのではないか。美しすぎる故、どうしてもキラキラ輝く役どころが多く巡ってくるが、若い頃から言動は穏やかで思慮深い。作品を愛するあまり役作りに苦悩し「本番前に原作の槙生ちゃんの表情を思い浮かべ、再現を積み重ねた」と言うが、指先や足先に漂うものに新垣自身の年輪もかいま見える。
そんな新垣の内にあるものをさらに引き出したのは、ダブルながら今作が初主演の早瀬憩だろう。一見、派手さはなく、あどけなさも残る17歳だが底知れぬ泉から湧き出てくるような感情の渦は末恐ろしさすら感じる。新垣も「撮影2日目で深いパーソナルに踏み込んだ話ができた。信頼できた」と賛辞を惜しまない。
この映画の中心人物は皆、真っすぐに相手と向き合う。だからこそ、時にぶつかり合うも互いの目を見つめ、寄り添う。真正面から人と向き合いたい…そんな思いに駆られている人には、巡り合って欲しい。あなたの心が求めるものがちりばめられた、この1本と。【村上幸将】
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