お笑いコンビ、とんねるずの木梨憲武の展覧会が大阪で始まりました。展覧会は新作が中心ですが、24年前に制作した初期の作品もあります。先日、内覧会があり、取材する機会がありました。アーティスト・木梨の創作の出発点は? それは日常生活の中で「おもしろい」を追求することにあるようです。

 鮮やかな色彩、細部まで丁寧に描き込まれた絵画、拾ってきた流木に色を塗った「富士山」。段ボールを素材にして作ったユーモラスな妖精。段ボールの素材は日常生活からヒントを得て、“進化”していったそうです。

 「買ってきた商品のパッケージを捨ててしまうのはもったいない。はさみと接着剤だけで、200~300体の妖精を作ってみました」

 15年作品「フェアリーズ」には塗り薬「ムヒ」、お菓子「きのこの山」、線香「青雲」のパッケージで作られた妖精たちが大集合。愛くるしい妖精もいれば、クスッと笑える妖精もいます。みていると、なんだか楽しくなってきます。

 大事にしてきたテーマもあります。94年の初個展からのテーマ「REACH OUT」(手を差しのべる)。丸いキャンパスには人と人との結びつきを表現するために無数の手が描かれています。

 約2カ月前、お好み焼きを食べるているときにヒントに得て、完成させた「REACH OUT play」も展示されています。 東京の鉄板焼き店で、お好み焼きにソースをつける瞬間を着目しました。「奥さんと旦那さんがすごい高い位置からソースをシュシュと出して、お好み焼きにつけていた。『ダメです。ダメです』ってソースの容器を触らせてくれないんですね」。そのときに感じたのが「うわ~、これやりたいな~。だれもいないときにこっそりやらせてもらった。そのとき『あっ、これ!』」。

 お好み焼きのソースと同じ容器に、ソースと同じやわらかさにしたアクリル絵の具を入れて、鉄板をイメージした黒いキャンパスにお好み焼きのソースを上から落とすイメージで緑、赤、白、青、さまざまな色で手を描きました。鮮やかな色彩はお好み焼きを囲み、仲間とワイワイ、ガヤガヤと騒いでいるような楽しいひとときのようです。

 「ソースを使う手の圧と量。職人さんたちは分かっていますからね。一人前のお好み屋さんになりたいです(笑い)。というか、使いこなしたい」

 大阪文化館・天保山で13日に開幕した「木梨憲武展 Timing-瞬間の光り-」(9月2日まで)のタイトルについても思いがこもっています。

 「タイミング? それっていつくるのかな~って、話したりしていても、なかなか答えが見つからなかったりするもの。タイミングが来たとき『うわ~来た!』。例えがヘンなんですが、銀行の前の路上スペースが埋まっているのに、銀行に近づいたときにちょうど車が出て行って、スペースが空いて、入ることができた。そのタイミング。そのときの喜びはない」。日常生活に中の出来事に例え、木梨流の「タイミング」について語りました。それは人と出会いにも通じます。

 「人とのタイミングもそう。出会うタイミング、モノもそう。生きていくためのタイミング。作品に対するタイミング。そしてタイミングが合いすぎると、すごい光が出ているんだろうな」

 展覧会は東京五輪が開かれる2020年まで14会場を巡回します。全国を行脚しているうちに、作品もどんどん増えていきます。

 「とんねるずのみなさんのおかげです」「ねるとん紅鯨団」など大きな話題を呼ぶバラエティー番組を世に送り出し続け、歌手としては91年に「情けねえ」で日本歌謡大賞を受賞。いまも俳優、声優など幅広く活躍しています。

 「芸術家? いえ、芸術家ではないです。なんでも屋です」

 画家はいたずらっぽく笑いました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)