新型コロナウイルスの感染拡大を受け、イベントや公演の中止・延期が相次いでいます。「ご当地ソングの女王」と称される演歌歌手水森かおり(46)は、3月に入ってからは観客の前で歌唱した回数はゼロ。“お客さまロス”に直面しています。新型コロナウイルスは演歌歌手の王道スタイルにも影響を与えています。

先日、大阪市内で大阪・新歌舞伎座の5月公演「水森かおりコンサート」(5月13~15日)の取材会がありました。95年にデビュー。透明感のある歌唱で人気を集め、03年の「鳥取砂丘」でブレークして、NHK紅白歌合戦に初出場。以来、「釧路湿原」「大和路の恋」「水の咲く花・支笏湖へ」などで17年連続出場しています。日本各地の風情や人情を歌う路線が当たり、「ご当地ソングの女王」と呼ばれています。

売れない時代から、今も大事にしているのが店頭キャンペーン。全国のショッピングセンターの一角でマイクを握ります。多くの観客の前で新曲を歌うことで、じわじわと広め、カラオケで人気を定着させるのが演歌歌手の1つのスタイルです。

2月18日発売の新曲「瀬戸内 小豆島」の店頭キャンペーンは2月下旬から次々に中止になりました。「歌わせていただきたいという思いはありますが、お客様の安全と健康が一番です。中止を判断する方々も苦渋の決断だと思う。これだけは仕方がない」。四国がシングル曲の舞台になるのは初めて。しかもデビュー25周年の節目の新曲だけに、思いは募ります。

「発売後、約1週間はキャンペーンができましたが、それ以後はすべて中止です。コンサートも2本、中止。テレビで歌うときも無観客です。初めての経験です」

3月に入ってからは、1度も観客の前で歌ったことがない状態だといいます。先日、生放送の歌番組に出演したときでした。いつもなら満員のホールには1人も観客がいません。

「出演者のみなさんと、『なにか不思議な感じだね』って。本番なのに、なんとも言えない不思議な感じでした。目の前にお客様がいてくださるから、さあ、本番だと、グッと力が入る。お客様の存在の大きさを改めて感じています」

エンタメ界にも大きなダメージを与えていますが、立ち止まっているわけにはいきません。たとえ歌番組が無観客でもモチベーションを高めて臨みます。「テレビの前にはたくさんの人たちがいてくださっている。そう思ったら、ぐっと気持ちが切り替えることができます」。

多くの観客の前で歌うことで、新曲を熟成していくスタイルを貫くことはできません。それでも「現状を受け止めて、歩みを止めることなく、みなさんと再会できる日を楽しみにしたい。いまの自分のできることを一生懸命にやるのみです」。

当初、予定していた取材時間が過ぎても、「ご当地ソングの女王」は熱く語り続けました。「生の言葉を(メディアの)みなさんに伝えてもらえたらと。いまは言葉の大切さも感じています。お客様の前に立てない分、生で聞いていただけない分、カメラの前では“1曲入魂”です」。1日も早い終息を願いながら、ファンとの「再会」を楽しみしています。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)