朴訥な語りの中に映像制作を志す「後輩」たちへの力強いメッセージがありました。日本を代表するアニメーション監督の1人、原恵一監督(63)が先日、大阪芸術大学(大阪府河南町)で行われたアニメ映画「かがみの孤城」(原恵一監督、23日公開)の先行試写会の舞台あいさつに登壇し、学生たちの質問に答えました。
原監督と言えば、「大人が泣けるアニメ」として話題を呼んだアニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲」(01年)を手掛けました。「カラフル」(10年)、浮世絵師・葛飾北斎の娘で、浮世絵師のお栄が主人公の「百日紅(さるすべり) Miss HOKUSAI」(15年)では世界最大の「アヌシー国際アニメーション映画祭」で長編部門審査員賞など各賞を受賞しました。1作ごとに趣が異なります。
「かがみの孤城」は直木賞作家の辻村深月さんのベストセラー小説が原作。不登校の中学1年「こころ」が、鏡の向こうの世界で願いをかなえてくれる鍵を探す冒険ファンタジー。
舞台あさいつで司会を務めたプロデューサーが、同作について「居場所のない少女の物語です」と紹介すると、原監督は「ええとね……」と少しの沈黙の後、「そこはね、僕はあまり思い入れはないだんよね」と“反論”しました。「プロデュサーとか宣伝マンは何かしら映画にワードをつけたがるけど、僕なんか居場所なんてなかったよ。居場所なんて求めたちゃダメ。居場所なんてなくて当たり前だから」と真剣なまなざしで語った後、明るい声のトーンで「居場所がないって悩むなんてやめたほうがいいよ」とアドバイスすると、学生たちは少し緊張が解けたのか、笑いが起きました。
舞台あいさつでは学生からの質問タイムもありました。1人の学生から「僕が子どものころから原監督は活躍されていますが、10年、20年前と今の観客の違いに変化はありますか」には、「お客さんの変化は感じています」と回答し、「お客さんが、あまり映画をみて想像しなくなったと思う。(作り手は)わざと曖昧にしているシーンもあるけど、いつのころからか、曖昧なシーンが、曖昧で分からないからよくないという印象を持つお客さんが増えてきている気がする」と分析しました。
時代の風潮とともに「作り手も出資者側も、そこをものすごく意識し、ものすごく丁寧に分かりやすく、何の疑問を持たないで見え終えるという作品作りをし始めている」。作り手として「僕は断固、反対です。映画って分からなくて当たり前なんです。持ち帰って、しっかりと考える、見終わった後に友だちと言い合いをする。解釈の違いを言い合ったりする。それが健全な映画の見方だと思う。いま分からなくても、10年後に分かることもある」と熱く語りました。
先行試写会に参加したのはほとんどが映像制作を志す学生でした。最後に「この中の多くの方が映像制作の道に進みたいと思っていると思うけど、全員の夢がかなうことはないです」と直球を投げ込みました。
「だけど、だれかの夢はかなうと思う。何が違うか? 考えてほしい。僕はあきらめないことがすごく大事だと思う」
日本映画、アニメーションの現場について「かなり厳しい。実写はとくにアニメ以上に悲惨だと思う」と映画業界の現状もストレートに伝えた上で、学生に「覚悟」を問いかけました。
「苦労することは当たり前だよ。だって人を感動させることを仕事にしたいのだったら、ちょっとやそっとの苦労なんて当たり前なんだよ」
原監督も若いとき、「きつい目にもあった。眠れなかったり、怒られたりとか、絶対にある。ここで変に反発するのはおかしい。それぐらい、みんな真剣にやっている。だから怒る」と振り返りました。
「ほとんどの先輩たちはつらい経験をして、たぶん自分の居場所が、見つかる。だから、それを信じて、ひるむことなく、映像制作の道に進んでください」
もがき、苦しんでもいい。いつの日か、きっと「居場所」が見つかるはずです。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)




