俳優中井貴一(55)が、ニッカンスポーツコムの単独取材に応じた。今回は、公開中の映画「花戦さ」(篠原哲雄監督)のような本格的な時代劇を、レガシーとして後世に残すための方策を提案する一方で、昨今、ドラマや映画の製作現場で、作品作りの足かせになっていると問題視される「コンプライアンス」についても直言した。

 中井は近年、衰退の危機が叫ばれる時代劇を、本来、あるべき姿で再現することこそ、日本の文化、芸術の保全の意味からも大事だと強調する。

 中井 僕たちは今、きちんとしたシステムみたいなものを、みんなで構築しないといけない。作品が当たる、当たらないということよりも、こういう映画は残さなければいけないという価値観で製作、公開する映画と、お客さまが動員できる映画を、同列で見ないことが出来る認識を作らなければいけないと思います。

 -映画業界としてシステム、スキームを構築していくしかないでしょうし、予算の補助など国のサポートも必要になってくるのでは

 中井 絶対に、そうだと思います。僕たち業界だけで考えるべきことではなくて国が文化、芸能、芸術をどう考えてくれるかということが、とても大きいと思います。僕たちは今までも頑張って、節制して映画を作れるよう努力してきたわけですから。何百億、何千億を出してくれということではなくて、システム作りの国家予算を割いてくれないか、ということは本当にお願いしたいですね。

 その一方で、テレビや映画の製作現場で、局や製作サイドが「コンプライアンス」に縛られていることに苦言を呈する。例えば刑事もので、殺人犯が車で逃走するシーンで、急いで逃げているはずの犯人がシートベルトを着用したりするなど、不自然なシーンが昨今、少なくない。映画においても、差別用語がタイトルに入っている作品の上映を、劇場が拒否するケースもあった。中井は、その弊害が大きいことを指摘しつつ、作品作りへの理解を求めた。

 中井 本当に(テレビと映画)全部ですよ。僕たちの商売って…ウソなんです。ウソをつく商売なんですよ。だから、ウソをウソだとして理解して楽しむという気持ちを、お客さまが持ってくだされば、コンプライアンス問題は存在しないんですよ。例えば(視聴者は)人を銃でバーンッと撃つシーンにはウソを感じ取るけれど、車で逃げる犯人がシートベルトをしないことにウソを感じない(から、シートベルトを着用しないで運転するシーンに批判が出かねない)。そのはざまを我々は埋めていって、何を言われても「いや、犯人はシートベルトは締めません!!」と言い切ることが出来る、製作側の力も持たなければいけませんね。

 中井は、製作側がコンプライアンス順守に執心する背景に、作品を見る視聴者側の許容範囲が狭まっている点もあると懸念した。次回は、その根源にあると考える教育問題について、中井が本音で語る。【村上幸将】