静岡のテレビ局アナウンサーから女優に転じて1年3カ月。山田桃子(28)が、映画初出演を果たした。今月26日開幕の「富士湖畔の映画祭2019」(本栖湖キャンプ場)で上映される短編映画「VR職場」(高島優毅監督)だ。自身が5年間経験してきたアナウンサー役だが、今は、1つの役をつかむのも大変な状況を思い知らされている。それでも、めげずに前進する山田の思いを聞いた。

  ◇  ◇

「VR職場」は、ゲームの中での仮想現実を描いているが、山田は現実世界側のアナウンサー役だ。

「30分間の作品で、私はこのゲームを取材して、視聴者に紹介する役です。作品の序盤に出る形になりますが、仕事を通じて知り合った方に静岡でアナウンサーをしていた経歴を話すと、『ちょうどアナウンサー役を探しているんですよ』と出演依頼をいただきました。私は、Daiichi-TV(静岡市)を退職した時に『もう、アナウンサーはやらない』と宣言していましたが、実際に演じる上でのアナウンサーは全然違う感覚でした。『自分ではこんな言い回しはしない』という部分もありながら、この役に挑戦できたことをうれしく思います」

女優に転じて4カ月目の昨年7月、フジテレビ系「痛快TVスカッとジャパン」の再現ドラマ、テレビ東京系連続ドラマ「警視庁ゼロ係」に出演した。順調な滑り出しに思えたが、その後は「壁」に当たり続けていた。オーディションは、月1、2本のペースで受けているが…。

「なかなか役をいただけないですね。演技レッスンは受け続けていますが、自分を磨くために茶道、殺陣にも取り組んでいます。あとは、幼少の頃から大学時代まで続けていたバレエを再開しました」

そのきっかけは、70代女性で今も現役の恩師との再会だったという。

「発表会を見に行った際に、ズバリと言われました。『目の前のことに、どれだけ集中して入り込めるかだよ。自分の身に起こっていることなのに、役として切り離していない? 本気度が足りないと思いますよ』と。自分の中では、全てを捨ててこの世界に飛び込んだつもりでしたが、何もかもを見透かされた感じがして、とめどなく涙が流れてきました。そんな私に、恩師は『あなたは小さい頃からバレエをやってきたでしょ。そういう仕事を選んだのだから、一生、鍛練を続けるしかないんだよ。また、バレエに来なさい』と言っていただきました」

原点回帰。その翌日には、都内の教室にいた。怖さもあったが。自分の殻を破るために、足を踏み入れた。

「教室に入る前から緊張で汗だくの自分がいました。昔のように足も上がらないし、久しぶりの白タイツにレオタードは恥ずかしくもありましたが、いつの間にか無心で踊っていました。『ああ、こういう感覚が芝居にも大事なんだ』と思いました」

山田の所属事務所先輩には、小栗旬、綾野剛らがいるが、綾野は「役を演じているつもりはない」と公言し、そのキャラクターになり切ることに徹している。

「すごいと思いますし、私も早くその感覚をつかみたいです。レッスンでは泣きの芝居に苦労していますが、恩師の前に立った時は、ガーッと泣けました。心をさらけ出していたからだと思います。芝居も『考える』のではなく、『さらけだす』ことなんだと…」

山田を担当する事務所関係者も「そういう感覚は、1つのきかっけでつかむことがあります。あとは、レッスンではできていることをオーディションなどの本番で出し切れるか。今後に期待します」と言い、見守っている。

「本当にありがたいです。今回映画出演でやっと半歩進んだ形ですが、恩師のような生涯現役を目指して、日々、精進します。静岡で応援してくださったみなさんに恩返しをするためにも、飛躍してみせます」

28歳でキャリア1年の女優人生。山田はその花を咲かすべく、今日も「さらけだす」感覚を追い求める。【取材・構成=柳田通斉】