フリーアナウンサー古舘伊知郎(66)が、16日に単行本「MC論」(ワニブックス)を出版する。

テレビ番組の司会として1960年代から活躍した故大橋巨泉氏をはじめ、タモリ、たけし、さんまの「ビッグ3」、とんねるず、ダウンタウン、中居正広、みのもんた、関口宏、小倉智昭、黒柳徹子、安住紳一郎、羽鳥慎一、村上信五などを取り上げ、その手法、影響力などを分析した“交友録”でもある。

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本は定期的というわけじゃなくても、出したいという気持ちがある。源流に「トーキングブルース」っていうしゃべりがあって、トークの舞台と本がつながっている。いろいろなことを語り下ろすとか、いろんなことを書き上げるっていうのは、僕の中でつながっているんです。

2年前の7月に「言葉は凝縮するほど、強くなる-短く話せる人になる! 凝縮ワード」っていうのを出版していまして。テクニックとして凝縮ワードで、せちがらい世の中を乗り切った方がいいみたいな流れの中から、今度は「MC論」。昭和から平成、令和にかけてうつろう中での、テレビのMCたちの司会ぶりみたいな。しゃべりから、何か参考になることがあるよっていうのは、つながっていると思う。

やっぱり僕は昭和からしゃべる仕事を始めているし、昭和に生まれ育ってきている。たかだかまあ、戦後9年ぐらいに生まれて。戦争をまだ、引きずってるぐらいの頃に生まれてるわけで、物心ついたときに“戦後ではない”みたいな。ちょっと、そういうムードもあったように思いますけど。だから昭和という時代を当然生きてきて、しゃべる仕事、司会の仕事とか実況とか、いろいろやらせてもらった。平成になってもやらせもらって、令和に立っている。

世の中の模様が大きく変わるのと全くシンクロする形で、社会を映す窓とも言われて久しいテレビっていうものが、どんどんテレビの受像機も角張りブラウン管ではなくなり、平面の画面になった。今に至って、10代、20代がアンケートで驚愕(きょうがく)するほどにテレビを見ていない。10代20代が。ネットの世界にいるみたい。

でも、MCとか、司会なるもののたたずまいや、あり様が変わっていった。いいとか悪いとかじゃなくて変容していってるみたいなわけで。それとその時代の変遷みたいのが、当然そのあるんでしょ。だからそういうのを、ちょっと振り返りつつやってみたいなと思ったんです。

それがいいのか、悪いのかもよくわからないんですけども。僕は、そういうことに一生懸命になっちゃった。前に歴史学者の磯田道史先生が言ってた言葉があって。あの人は、慶応大学時代から図書館にみかんを持って、おにぎり1個も食わずに、気がついたら卒倒して救急車で運ばれるとか、歴史の世界に戦国時代に埋没していくっていう。歴史学者には珍しくないのかもしれないけども。

僕が何でこんなに歴史に没頭していくかって言うと、前を見るためなんでしょうか。別に近未来を予測しようとまでは思わないけど「今と未来に向けていくためには後ろが必要なのですよ」と。それこそ凝縮ワードじゃないですか。もっと凝縮すれば「前を向いて過去に向かって後ずさること」。これが私の歴史の学びなんです。僕は、なんだかわかんないことが大好きなんだね(笑い)。

前を向いて生きるために積極的に確認する。バック、後ずさること、これが歴史を学ぶことだったので何か分かるような気がしたね。前面ポジティブで、後ろ向きになってネガティブになりすぎるのもどうかと思いますし。その両面が入ってるところが両面焼きでね、良い焼き加減だなと思ったんですよ。

僕は、自分がたどってきた昭和からの流れも総ざらいしてみたいと思ったしテレビの変遷も垣間見てみたい。ちょっと後ずさって過去を振り返ってみたいとも思いました。そういう意味では出版社のもくろみと、僕が、そうにありたいと思ったものが、合致しててほしいなと思ってます。(続く)

◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77年にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85~90年フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。09~94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94~96年NHK「紅白歌合戦」司会。94~05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04~16年「報道ステーション」キャスター。現在、NHK「日本人のおなまえ」(木曜午後7時57分)司会など。YouTube「古舘Ch」。14日の徳用・渋谷区文化総合センター大和田古さくらホールから初の全国ツアー「古舘伊知郎トーキングブルース2021」がスタート。血液型AB。