007シリーズの新作「ノー・タイム・トゥー・ダイ」(キャリー・ジョージ・フクナガ監督)が今月に入ってようやく公開された。当初予定された昨年4月から延期されること3回。配給会社にとっては待ったかいがあったというべきか、緊急事態宣言解除とピタリと合わさるタイミングとなった。

注目度を一段とアップさせたのは、これが6代目ジェームズ・ボンド、ダニエル・クレイグ(53)の最後の作品であること。こちらも待ったかいがあったというべきか。ここでは詳述を避けるが、アッと言わせる幕切れが待っている。

序盤のあいさつ代わりのアクションは回を追うごとにグレードアップしている感があって、今回もそれだけでおなかいっぱいになる迫力の急展開である。

かつては直球的に悪いやつだった敵役の「哀しい一面」が描かれるのも近作の特徴で、「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレックが演じた今回は、まるで「バットマン」シリーズのような哀愁が漂っている。

ボンドが引退しているという設定でスタートする今作には、彼の前にラシャーナ・リンチふんする女性エージェントが現れ、「007」を名乗るシーンがある。一瞬表情を曇らせたボンドに「永久欠番だと思っていたの?」と畳み掛ける。終盤に向けて彼女はボンドの「バディ」として活躍する。こんな設定もあってか、一昨年の撮影中には「7代目は女性か」という情報も出回った。

これが5作目のクレイグ版は、本数で言えば3代目ロジャー・ムーア(7本)初代ショーン・コネリー(6本)に次いで3番目ということになるが、イアン・フレミングの原作にある寡黙でタフなボンド像にはもっとも近かったのではないかと思っている。

06年の「カジノ・ロワイヤル」で6代目を襲名した当時は、それまでの黒髪から初の金髪、歴代ボンドに比べて背が低かった(178センチ)ことから、「007」を愛する余り辛口になる本国英国で半端ないバッシングを受けた。興行記録を塗り替え、文字通り黙々と演じ続けることで、ようやく「コネリー以来最高のボンド」として認知されたのだ。

ともあれ、シリーズは「7代目」のもと来年60周年を迎えることになる。【相原斎】