清く正しく美しく-。タカラジェンヌを象徴する言葉だが、月組の新トップ月城かなとは、まさしくその通り。凜(りん)とした美しさ、俯瞰(ふかん)的に自らをとらえることのできるクレバーさは、下級生時代から際立っていた。

トップ就任直前には、あの春日野八千代さんが初演した代表作のひとつ「ダル・レークの恋」に主演。時代とともに変化する宝塚歌劇にあって、往事をしのばせるようなクラシカルな美を発揮し、魅了していた。

新トップに就き、月組を率いる月城かなと
新トップに就き、月組を率いる月城かなと

今作インタビューでも、月城は、目指す男役像、トップ道を聞かれ、こう答えている。

「一言で言えば『宝塚らしい』っていうことですかね。その時の作品によって、こういう男性を目指すっていうのは違うんですけども、いつもあるのは…。宝塚が私は大好きなので、宝塚らしい男役になりたい。そう常に思っています」

いつも地に足のついた回答をする。質問にも真正面から向き合い、等身大で、自分の言葉を紡いできた。

前理事長の小川友次氏は、トップの条件として「人柄」をあげていた。「舞台には人間性が出る」とも。80人近くを束ねる組の頂点は、芸事においても、人間性においても、皆の手本でなければならない。芝居巧者、歌がうまい、ダンスが飛び抜けている、という技量だけでは務まらない。

のべ3カ月に及ぶ本拠地作を年に原則として2回、上演する劇団システムにおいて、その期間、組子をまとめて歩んでいくには、相応の「人間力」を要する。

月城は「立ち止まることができる」スターでもある。09年に入団し、雪組に配属された。同年の2月に宙組から組替えになっていた早霧せいなが雪組トップの時代に、ちょうど主力へと成長期する時期を過ごした。稽古場で悩み、苦しむ姿も後輩に見せ、仲間と一緒に歩むトップの姿を見て、舞台に、人に誠実である、その人間性を学んだことだろう。

それゆえか、今回、トップ像の理想を問うと、実に素直な答えを返した。

▼▼後編 理想のトップ像を語る「自分はそうではない」▼▼

「自分1人でトップになれるわけではなくて、これからも存在していけるわけじゃない。〇日からトップです-と、言われても、自分の中で何かが完成されるわけではない。皆の力を借りて、トップとして役目を全うしたときに、組がもしかしてこう変わったのかな? とか、この人はこうだったのかな? と思ってもらえるんじゃないかと」

トップは孤独とも言われる。常に完璧であろうとすれば、なおさらだが…。

「私はやはり皆と一緒にやっていく。もちろん、トップとして君臨されて、やっていける方、そういうタイプの方もいらっしゃるとは思うんですけど。自分はそうではないと感じています」

大勢のトップの背中を見てきた。その姿から、自分に合うスタイルを見つけたのだろう。

自分を客観視できるクレバーさは、下級生時代から感じていた。雪組最後の作品は、2年後輩の永久輝せあ(現花組)とのダブル主演作だった。若手主体の公演で、2人そろって取材を受けた。

まだ怖い物知らずで、抜てきを楽しんでいた永久輝の武器は、その場を一瞬で明るくする華やかさも持っていた。月城は当時「ひとこ(永久輝)が雪組に入ってきたときから、刺激になりました。華やかさとか、自分にないものを全部持っている。自分の魅力とは何か? をあらためて考えました。ひとこが入ってこなければ、今の私はない」と話していた。

当時、各組には、歌、ダンス、芝居すべてに秀でる現星組トップ礼真琴、屈指のダンサーの現花組トップ柚香光ら、勢いのある同期がいた。「花の95期」と呼ばれ、月城も同期に負けじと「自分探し」をしていた時期。そのクレバーさゆえに、時に舞台上で“押しの弱さ”が出てしまうことをしっかりと自覚し、自分ならではの輝きを放つよう努めるようになった。

そして月組へ。新たな環境に臨むこの異動を、「なりたい自分になれる機会を得た」とも表現した。

「(自身を)下級生のころから全部見せてしまっている環境の中では、自分が変わったことを言えたり、変わったと思ってもらえる機会はなかなかない。雪組で培ってきたものを、臆せず、出せる環境にいけたのがありがたかった。組の中でどうやっていけばいいのか。その(組の)責任が自分にもあると感じていいんだと思えるようになった」

「男役10年」を目前にした入団9年目に入る直前の組替え。未熟だった自分を知らない組へ飛び込んだことで、月城なりの自信につながった。入団から退団まで同じ組で過ごす者も多いが、考えすぎる面もある月城にとっては、新天地への組替えが好機となった。

新人時代から、浮いた雰囲気を感じさせなかった月城だからこそ、あえて変化を問うてみた。

「昔から、落ち着いているとよく言われるんですけども。でも、全然内心はそんなことはなくて(笑い)。あの…きっと、緊張しすぎていて、落ち着いているように見えるんだと思うんですよね。人よりも数倍、緊張しているタイプです」

照れながら、真摯(しんし)な答えが返ってきた。

月組へ移って5年足らず。「エリザベート」では出世役ルキーニを演じ、先輩スターの休演でフランツも経験した。暁千星、風間柚乃ら個性豊かな後輩がそろう中、前トップ珠城りょうを最も近くで支え、月組を率いる立場になった。

「トップになっても何も変わらない」

その言葉通り、不安も重圧も「あります」と素直に認め、大任へ挑む。変わらぬ芯の強さは頼もしく、新生月組への期待は高まっていく。【宝塚歌劇団担当=村上久美子】