フランスで開催中のカンヌ映画祭で、最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(60)の映画「怪物」(6月2日公開)が26日(日本時間27日)同映画祭の主要部門から独立した賞の1つ「クィア・パルム賞」を受賞した。日本映画としては初の受賞となる。

クィア・パルム賞は10年に創設され、第63回のカンヌ映画祭から授与されている。LGBTQやクィアといった、性的マイノリティや既存の性のカテゴリに当てはまらない人々を扱った映画に与えられる独立賞の1つ。コンペティション部門、ある視点部門をはじめ、カンヌ映画祭と並行して開催されるフランス監督協会主催の監督週間、フランス映画批評家組合主催の批評家週間などの部門に出品された全ての作品が対象。公式部門とは別に独立した審査員が組織され、映画監督や俳優、ジャーナリストや大学教授、各国のクィア映画祭のプロデューサーなど、毎年5、6人が審査員となる。

「怪物」は、是枝監督が17年のTBS系ドラマ「カルテット」、21年の映画「花束みたいな恋をした」などで知られる、脚本家の坂元裕二氏(56)と初タッグを組み、日本映画としては3作ぶりに手がけた新作。大きな湖のある郊外の町で起きた、よくある子供同士のケンカに見えたものが、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たちの主張が食い違い、次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちはこつぜんと姿を消す物語。

シングルマザー麦野早織を安藤サクラ(37)早織の息子・湊を黒川想矢(13)湊の友人の星川依里役を柊木陽太(11)担任教師の保利道敏を永山瑛太(40)が、それぞれ演じた。劇中には、黒川が演じた湊と柊木が演じた依里が、男の子同士でお互いを好きになっていく過程と、その心の動きが繊細かつ克明に描かれている。2人は演じるに当たり、性的シーンで俳優と製作側を取り持ち、ケアするインティマシーコーディネーターや、保健体育の先生の指導も受けている。

クィア・パルム賞審査員長を務めた、米国のジョン・キャメロン・ミッチェル監督は「私たち審査員は、10日間で12本の映画を観ました。1本を選ぶのは大変な作業でしたが、ある作品が満場一致で選ばれました」と「怪物」を満場一致で選んだと明かした。そして「その物語の中心にいるのは、他の子供たちと同じように振る舞うことができず、またそうしようともしない、とても繊細で、驚くほど強い2人の少年です。世間の期待に適合できない2人の少年が織りなす、この美しく構成された物語は、クィアの人々、なじむことができない人々、あるいは世界に拒まれている全ての人々に力強い慰めを与え、そしてこの映画は命を救うことになるでしょう。登場人物のあらゆる面を、繊細な詩、深い思いやり、そして見事な技術で表現した是枝裕和監督の『怪物』に、私たち審査員は満場一致でクィア・パルム賞を授与します」と述べた。

是枝監督は「ありがとうございます。まずこの作品を満場一致で選んで頂いたジョン・キャメロン・ミッチェルさん、審査員の皆さまありがとうございます。そしてこの喜びをここで分かち合って頂いている皆さまにもお礼申し上げます。ありがとうございます。(ミッチェル監督が)お話ししてくださった映画の紹介の中に、この映画を通して僕が描きたかったことが全て語られていて、ここで僕が何か言葉を重ねることは何も必要ないような気がしています。」と感謝した。その上で「僕がこの映画のプロットを手にしたのは4年半ほど前なのですけども、その瞬間からこの主人公2人の少年が抱えている葛藤とどういう風に、それを演じる少年と同じように作り手であるプロデューサー、監督、脚本家がその葛藤と向き合うべきなのか、どうしたら向き合えるのかをとてもとても時間をかけてやってきました」と製作を振り返った。

是枝監督自身は「怪物」を、LGBTQに特化した作品とは考えていないと語っている。それでも、今回の受賞には喜びを感じており「映画が全てを語っていると思うので、監督がここでなにかをいうのは、おまけのような、いらない蛇足なのですが本当に、この映画を愛していただいて感謝いたします。ありがとうございました」と感謝した。

是枝監督作品のカンヌ映画祭コンペティション部門への出品は、韓国映画に初めて挑戦した22年「ベイビー・ブローカー」に続き、2年連続、7回目の選出(カンヌ国際映画祭への出品自体は9回目)。今作同様、安藤が主演し18年にパルムドールを獲得した邦画としての前作「万引き家族」に続く、5年ぶり2度目の頂点取りを目指す。授賞式は27日(同28日)に行われる。