映画「鬼平犯科帳 本所の銕(てつ)/密告」(山下智彦監督)が10日、公開された。
一昨年から松本幸四郎(53)主演で放送されているシリーズの新作2本をまとめた特別先行版で、その1本は「本所の銕」と呼ばれた頃の若き日の鬼平にスポットを当てている。演じるのは市川染五郎(21)で、親子2代で鬼平の四半世紀を描く特別な作品になっている。
鬼平役は初代松本白鸚が主演した69年のテレビシリーズに始まり、75年の丹波哲郎と80年の萬屋錦之介を挟んで、89年から25年にわたって幸四郎の叔父である中村吉右衛門の当たり役となった。幸四郎・染五郎親子にとっても特別な思いのある作品である。公開前に染五郎に話を聞く機会があった。
「原点をたどれば、曽祖父の初代松本白鸚をイメージして池波(正太郎)先生が書かれたのが『鬼平』です。父幸四郎が引き継いでそれが残っていく、というのがまずうれしかったですね。一昨年に始まった収録の一番最初が銕三郎のシーンだったので、その時はぐっと責任を感じました」
若き日の鬼平への思いも巡らせた。
「今回の『本所の銕』のパートはほぼオリジナルストーリーなのですが、平蔵時代とは違う銕三郎の魅力が詰まっています。やんちゃしている時代ですけど、持ち前の正義感があって悪にはなれきれない。そんな人間的な魅力が将来の平蔵の情の厚さ、懐の深さにつながっていく。その変化していくグラデーションを思い描きながら演じました」
幼少期から身近な題材として接してきた。
「大叔父がやっていた鬼平は小さい頃から見ていたんですが、ちゃんと作品として向き合ったのは一昨年、このシリーズに出させていただくことになった時ですね。大叔父の作品では、銕三郎時代の回想シーンも大叔父自身が演じています。東京から京都の撮影所に通う新幹線の中で、毎回映像でそれを見返して染み込ませていたんですけど、今回の作品ほど、銕三郎にフォーカスされているわけではないので、それを引き出しにしながら、自分なりの銕三郎を作り上げていく感覚です」という。
同じ人物の青年時代と成年時代を演じているわけで、父・幸四郎と劇中で絡むことはないが、撮影所では顔を合わせる機会があった。
「今回は撮影所で平蔵にふんした父を見る機会もあって、なんか未来の自分を見ているような。それもあってか、あえて父の声の出し方や歩き方に寄せるアプローチもためしてみました」
役作りや演技についてアドバイスを受けたり、話したりすることはないという。あくまで「見て学ぶ」が基本なのだ。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22年)の木曽義高や映画「レジェンド&バタフライ」(23年)の森蘭丸など、映像作品でも印象的な役を演じてきたが、今回もその難しさを実感したという。
「殺陣も歌舞伎とは見え方が違う。360度意識しなければなりませんし。今回は斬るのではなく、峰打ちの太刀さばき。それにあくまで修業中、成長過程の剣術であることを意識するように殺陣師の方から言われました。学ぶことが多いですね」
時代劇の本数が減る中、前向きな姿勢で、しっかりと引き継がれる「鬼平」は貴重な存在だ。【相原斎】



