2週間前、ある舞台のゲネプロを観劇していた時のこと。幕あいの休憩が終わって芝居が再開されると、おそろしく視界が悪くなっていた。前の席に座っていた男性が、二幕から帽子をかぶっていた。それもつばが広いハットだ。寒かったのかな、と一瞬寄り添ってみたものの、劇場ではNGとされる行為である。

また別の日は、隣の女性3人組が劇中もずっとおしゃべりしていた。この時はゲネではなく、正規料金を払って入った。注意しようかしまいか悩んだ。言えば自分も声を出すことになってしまうし、もめるのもよくない。せっかくの本番中に、そんな余計なことを考えて集中できないこと自体、いやだった。結局、途中で係員が「お静かに」と書いた紙を渡しにきてくれて解決した。

先日、俳優鈴木勝吾(37)が「観劇中に包み紙開けて飴ちゃん食べたりとか、音、ぜーんぶ聞こえてるからね」とXに投稿して賛否を呼んだ。後に言葉足らずだったと謝罪していたが、議論が起きたという意味ではいい影響があったと思う。

劇場には観劇慣れしている人もいれば、そうでない人もいる。初観劇の知人と出かけた際、「背中は背もたれにぴったりつけてね」と言ったら「どうして?」と聞かれた。少し前かがみになるだけで後ろの人が見えなくなる場合があるから、と伝えたら納得していた。経験がなければ想像できないこともある。

全員が“作法”を調べて行くのが理想だが、実際は難しい。演劇のチケットは1万5000円とか2万円とか高額なものが多い。人によってはプラス宿代、新幹線、飛行機代を払って見に来ている。映画館のように、開始5分前にマナー啓発動画を流せたらいいのに-。

「飴ちゃん」問題はさらにややこしい。飲食禁止の会場が多い中で、それを分かった上で、せき込んで周りに迷惑をかけないための“配慮”として持ち込む人もいるからだ。単に飲食をマナー違反と認識していれば解決する話でもない。

「そもそも食べるな」。まあ、それはそう。「せきが出る体調なら来るな」。それも分かるけど、体調不良ではなく、空調の乾燥が原因なことだってある。「開演前に口に放り込んでおく」「開封音がしないシリコンケースに移し替えるといい」「サイレントキャンディなる“水のどあめ”もある」。そういう心配りが一番大事よね。

鈴木の投稿も「あめをなめるな」が主題ではなく、真剣に演じている人、真剣に見ている人、双方の気を散らすようなことは控えてと言いたかったはず。自分が平気なことでも、不快に感じる人はいる。事情も、正しいと思うことも違う。いろんな感覚を知ることが想像力につながり、配慮につながる。この投稿で起きた波紋が多くの人の「考える」きっかけになって、気持ちの良い観劇空間が増えるといい。【鎌田良美】