ダービーで無敗の2冠を目指すソールオリエンスが「エリート」なら、今回が10戦目となるトップナイフ(牡、昆)には「たたき上げ」の強さがある。水島晴之の「G1の鍵 その一瞬」は、キャリア豊富な皐月賞7着馬に注目した。逃げて良し、差して良しの自在型。これまで培ってきた経験が、大舞台で生かされるか検証する。
トップナイフは9戦のキャリアの中で、いろいろな競馬を経験してきた。京都2歳Sは4角で他馬にぶつけられて減速しながら頭差2着まで巻き返し、ホープフルSは意表を突いた逃げでドゥラエレーデの鼻差2着。弥生賞も4角で仕掛けを待たされながら、3着馬を差し返して連対した。あらゆる状況に対応できる豊富な「経験値」は、どの馬にも負けない。
昆厩舎といえば08年の覇者ディープスカイを思い出す。初勝利が6戦目でダービーは11戦目。しかも、距離が800メートルも短いNHKマイルC(1600メートル)からのG1連勝だった。最近はレース→短期放牧→直前入厩が主流だが、昆厩舎は手元(在厩)に置いて仕上げることが多い。調教、レース込みで課題を掘り起こし、対策を講じて使いながら成長させるやり方だ。
レースでなければ分からないことも多い。逃げた時の耳の動き、馬混みでの反応、折り合いなど。ホープフルSでは逃げてもためが利いたし、弥生賞は逃げた馬と内ラチ沿いの狭いスペースを割って出た。以前は他馬を気にするところもあったが、精神的にかなりタフになった証拠。昆師とベテラン横山典騎手が話し合いながら、ひとつずつマイナス面を消してきた。
皐月賞は出遅れたのがすべて。直線も大外へ出すロスの多い競馬となった。それでも最後まで集中力を切らさず、0秒9差で踏みとどまったあたりに、確かな成長を感じる。ダービーは他のG1とは雰囲気が違う。展開も読みづらい。いかに平常心でレースできるか。「経験値」がものをいう時、トップナイフの出番はある。
■トップナイフ、状態1段階UP
ホープフルS2着のトップナイフが発馬を決めて逆襲をはかる。皐月賞は後方から追い込んで7着。黒羽根助手は「ゲートで滑ったみたい。もともとスタートは上手な馬。後ろから脚を使って収穫もあった。皐月賞で最高潮を目指してやっていたけど、もう1段上の状態。ピカピカで黒光りしている」と状態面の上積みも見込んでいる。
■粗削りソールオリエンスに付けいる隙が
【ここが鍵】
今年の皐月賞は重馬場のハイペースで行われた。レースの上がり3ハロンが37秒2もかかる競馬。あの着順をそのまま評価するには無理がある。ソールオリエンスは4角17番手から大外を回っての差し切り勝ち。並の馬なら到底届かないようなポジションで、底知れない強さを感じた。ただ、京成杯同様コーナリングがうまくいかず、ある意味、そこで“遊び”があった分、余計にはじけたとも言える。
天才肌で世代トップの爆発力はあるが、キャリア3戦で粗削り。伸びしろも当然大きいが「経験値」という点では足りない部分もある。もちろん、絶対能力の違いで補ってしまうかもしれないが、他馬に付けいる隙があれば、ここだろう。キャリアが多ければいいというわけではなく、敗戦を糧に課題を克服、成長できたかどうか。その見極めが重要になる。
◆タスティエーラ 弥生賞で見せた正攻法の「形」
皐月賞のタスティエーラは、一番強い競馬をしていた。前半1000メートル58秒5の速い流れを5、6番手から積極的に出て行き、直線はいったん後続を突き放した。最後はソールオリエンスの決め手に屈したが、先行した馬の中で、上位に残ったのはこの馬だけ。負けて強しの内容。弥生賞もそうだが、正攻法で押し切る「形」があるのは強みだ。
◆ハーツコンチェルト 闘争心を刺激、復調手がかり
ハーツコンチェルトは新馬を圧勝した後、なかなか結果が出なかったが、青葉賞は久しぶりに、この馬らしい競馬で2着。馬体を絞り込んで10キロ減ったのも良かったが、馬混みで闘争心をかき立てるレース運びもプラスに働いた。直線は狭いスペースをこじ開けて集中力を維持。試行錯誤しながら、復調の手がかりをつかんだのは大きい。
◆メタルスピード 脚質に幅、二四でも好走
メタルスピードは13番人気の皐月賞で4着と善戦した。未勝利、1勝クラスはマイル戦で勝ったが、そこから一戦ごとに距離を延ばして、重賞での好成績につなげた。ここ2戦は強い相手に後ろから差す競馬を見せるなど、脚質に幅が出たのも収穫だ。8戦のキャリアを力にすれば、2400メートルでも好走が見込める。