“豪腕”が逸材を覚醒させた。1番人気のヘデントール(牡4、木村)がG1初制覇を果たした。

初騎乗のダミアン・レーン騎手(31=オーストラリア)の冷静な判断が生き、頭差で激闘を制した。今後は未定だが、凱旋門賞(G1、芝2400メートル、10月5日=仏パリロンシャン)にも登録しており動向が注目される。

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その青く澄んだ瞳には、すべてが見えていた。2周目3コーナーの上り坂で、馬群が動く。だが、レーンの手綱は動かない。「ちょっと早いと思ったので位置をキープした」。焦らず徐々に外へ出して進路の確保に専念。直線で満を持して右手のステッキを振るい、ヘデントールの闘志に火をつけた。外からシュタルケが迫っても、抜かせない。馬体を寄せて競争心をあおり、豪独トップ騎手のマッチレースを頭差で制した。

「グッドファイトを見せてくれた。ゲートをうまく出て道中もリラックスしていた。ペースが上がった時もいい反応をしてくれた」

目の高さにムチを掲げ、クールに喜びを表現した。“豪腕”に導かれ、中団から正攻法で完勝。同じ厩舎に育ち、5歳でオープン入りしたコルコバードを母に持つ晩成の逸材が、4歳春でG1初制覇を果たした。

木村師は「あの時の彼女にしてあげられなかったことを取り返したいと思って、ヘデントールと向き合っている」と明かす。母は18年エリザベス女王杯で8着。3コーナーの上り下りに苦しんだ経験を踏まえ、息子には右手前での走りやバランスに重点を置いた調教を課してきたという。

親から子へと、血をつなぐ。そんな競馬の使命をあらためて胸に刻んだ。トレーナーは自ら前週のリバティアイランドの悲劇について切り出し「私にとっても非常に苦しいできごと。当事者のみなさんのことを思うと、複雑な気持ちを引きずってはいる」と重い思いを口にした。かつて世界最強馬イクイノックスを手がけ、スターホースを預かる重圧は痛いほどに分かる。ただ、やるべきことは変わらない。「果たすべき役割を果たしたい」。自分の仕事に徹して1番人気に応えた。

前途は洋々だ。淀を制圧した新王者の資質には、鞍上も「まだ体も心も若い。成長すればもっといい馬になる」と太鼓判を押した。今後は未定だが、秋の凱旋門賞にも登録している。その眼前に広がる未来は、五月晴れの青空のように果てしない。【太田尚樹】

◆ヘデントール ▽父 ルーラーシップ▽母 コルコバード(ステイゴールド)▽牡4▽馬主 (有)キャロットファーム▽調教師 木村哲也(美浦)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 9戦6勝▽総獲得賞金 4億8610万1000円▽主な勝ち鞍 25年ダイヤモンドS(G3)▽馬名の由来 救世主(ポルトガル語)。コルコバードの丘のキリスト像より