勝利の瞬間、巨人高橋由伸監督(40)の口元が緩むことはなかった。首脳陣への握手も、選手へのタッチもない。グラウンドに数歩、足を進め、相手監督へ静かに帽子を脱いだ。結果より内容が問われる練習試合の勝利の意味は大きくない。とはいえ、感情を見せることもなかった。ウイニングボールにも「ないよ。公式戦だけ? そうでしょう」と冷静に徹した。

 ただ冷静のはざまには、情熱が見え隠れした。昨年2勝に終わった内海を初陣の先発に登用した。この時期は若手の出番が多く、異例だ。1月31日のキャンプイン目前のミーティング。高橋監督は選手の前で菅野とともに内海の名前を挙げ「引っ張ってほしい」と託した。個人名を列挙することは多くない。復活への期待を示した。

 長年、屋台骨を背負ってきた左腕も初戦先発の意味するものを受け止めた。「巡り合わせでたまたまかもしれない。でも監督の最初の試合で練習試合とはいえ、土はつけられない。名前を挙げてもらって絶対に恥ずかしい投球はできないという気持ちで投げた」。2イニングの完全投球を見届けた指揮官は「今日だけということよりもキャンプを通じて練習への姿勢、言動を含めて伝わってくる」と熱い回答を刻んだ。

 昨年まで自らが躍動していたグラウンドをベンチから見続けた。2点リードの7回無死三塁の場面で前進守備を敷かせたが、残りの場面はサインは出さずに選手の現状の能力に委ねた。今キャンプはほぼジャンパーを着て、この日は選手交代を告げるために珍しく脱いで背番号24を披露する場面もあったが、まだ“動の姿勢”は見せていない。

 「多少、頭の中で(采配を)考えたりしたが、あまりそういう場面もなかった。こちらから何をすることはなかった」。戦局を自ら動かす時がやがて訪れる。冷静と情熱の間に立ち、断を下す。【広重竜太郎】

<高橋監督の「一新」改革>

 ◆新兵器 昨秋キャンプからバーチャル打撃マシンを導入。かつてテレビ番組に出演した際に使用されていた同マシンの性能の高さに驚かされたことから、採用を決めた。春季キャンプでも使われ、広島黒田らの映像を相手に打ち込んだ。

 ◆鍛錬 キャンプではフィジカル系の練習を技術練習の前に前倒し。「技術的な練習を、余力を残さず目いっぱいしてほしい」。アーリーワークにはベテラン・中堅の村田、亀井らも名を連ねた。

 ◆数値化 キャンプ前のスタッフ会議では各部門のプレゼンテーションを受けて、今季の数値目標を示した。「打率2割6分5厘」「1試合平均4得点」を要求。昨季12球団トップの防御率を誇った投手陣に対しても「リリーフ陣の負け数減少」「菅野の鬼門・神宮克服」を指示した。