阪神は今季、矢野燿大新監督(50)が指揮を執り、最下位からの立て直しを図った。シーズン最終盤の劇的な6連勝で貯金1の3位に滑り込んだが、優勝は14年連続で逃した。来季こそ優勝するための課題、収穫はどこにあるのか。1年間密着取材してきた阪神取材班が、~矢野阪神1年目検証~「光と影」と題した連載で検証する。

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矢野阪神の象徴的な存在になったのがドラフト1位ルーキーの近本だ。キャンプからアピールを続けて開幕スタメンの座を手にするとシーズンを完走。セ・リーグ盗塁王と同リーグ新人最多の159安打を記録した。球団関係者は冗談っぽく笑う。「地味って言ったのは誰だよ。近本に謝ってほしい」。ちょうど1年前のドラフト。藤原、辰己とくじを外し、「外れ外れ1位」で指名された男が新人王を争う活躍でチームをけん引した。

矢野監督は開幕オーダーに近本を起用することを決断した。俊足好打の左バッター。マスクをかぶった現役時代から対戦相手として嫌だった2番打者のイメージを求めた。指揮官が驚いたのは気負うことのない近本の姿だった。大観衆の甲子園。足が震えるような場面の連続でも変わらない。試合中もペンとノートを持ち込み、気付いたことを書き込む。必要だと思ったトレーニングは積極的に取り組んだ。

矢野監督はシーズン中に近本についてこう話した。「気負いだったり、焦りだったり、結果が出る中で気持ちが揺れたり。あまりそれが表に出ない」。ブレることのない信念と自ら考えて動く行動力がある。プロとして自主性を求める矢野監督の考えにも合致した選手。それが近本だった。

「新戦力」はルーキーだけじゃない。矢野監督は眠っていた戦力の掘り起こしにも力を注いだ。目を向けたのが中継ぎ陣。2軍監督だった昨季から注目していた島本、守屋を抜てき。育成出身でプロ9年目の島本はチーム最多63試合に登板し、防御率1・67。リーグ屈指のブルペン陣のなかでも中心的な役割を担った。

シーズン終盤。島本は開幕前に矢野監督と話した目標を何度も思い返していた。「70試合を目標にしよう」。これまでの自己最多は16年の23試合。途方もない数字に思えたが、矢野監督はあえて高い目標を設定し、島本に語り掛けた。期待していることを面と向かって伝える。そして70試合という明確な目標を掲げて、イメージさせた。

出塁した選手たちが次々と右手を突き上げる。それに応えるようにベンチの矢野監督も笑顔で「矢野ガッツ」を繰り出す。今季何度も見たシーンだ。ミラクルとも言えるシーズン終盤6連勝での逆転CS進出。FA加入した実績ある西がグラウンドで笑い、涙する。ベンチの若手選手たちが大きな声を張り上げて喜びを爆発させる。喜怒哀楽の矢野野球が、浸透していた。【阪神取材班】(おわり)